企業炎上分析レポート【2023.07】

本レポートはレピュ研を運営する株式会社ジールコミュニケーションズが、独自の調査からデジタルリスクに値すると判断した事例を分析したレポートとなっております。2023年、毎月にわたって特に目立っていた。または特徴的な炎上事例とその発生要因等を解説し、どのような傾向・トレンドがみられるのかを追っていきます。企業または学校におけるデジタルリスクの管理やトレンドの情報収集に活用していただくことを目的として毎月発表しております。

2023年7月までの炎上発生件数推移

ジールコミュニケーションズの独自調査・判定より、2023年7月の炎上件数は22件となりました。炎上タイプの内訳は下グラフの通りです。

6月で一旦落ち着き始めたとみられていた炎上件数でしたが、7月に入り8件増加という結果となりました。特に割合が増加した傾向にあるのが「個人」による炎上件数です。個人とは、完全にプライベートでSNSを利用しているユーザーとは別に、インフルエンサーなど企業から案件をもらってタイアップをおこなっているユーザーも含まれます。昨今では、プライベート使用のSNSアカウントが、ユーザーの所属企業や学校と紐づくことで連鎖的に炎上するケースや、インフルエンサーの炎上によってタイアップしていた企業が巻き込まれる形で炎上するケースも多々見られます。「自社ではSNSを運用していないから関係ない」ということはなく、どんな企業でもSNSによる炎上リスクに備えておく必要があると言えるでしょう。

無許可で取材・こき下ろし記事掲載で炎上

あるニュースメディアの記事内容が、非常識すぎるとして炎上しました。

批判の的となったのは、グルメやエンタメといった娯楽・サービスに関する記事を掲載している大手ニュースメディアのグルメ記事でした。当該記事は「飲食店の店員さんが”自腹出来るくらい”オススメのメニューを教えて下さい」という企画ものであり、記事ライターが「事前に許可をとらず」に取材を進めていくという趣旨となっていました。実際の取材は下記のようなやり取りだったと、記事内で回想されています。

対応してくれた店員さんはどちらも20代と思われるレジ係の女性店員さんと、ドリンクを作る掛かりの女性店員さんの2名。奇しくも○○○(他店)の時と同じ構成である。またラッキーなことに、この時お客さんはまさかの0人。私は「絶好のチャンスキタ!」と張り切って「店員さんがご自身でよく飲んでいるドリンクを3つ下さい」とお願いした。

…が、レジ係の店員さんはかなり若かったためか、ややおろおおろしてしまっている。そこで登場したドリンク係の女性店員さん――。私とドリンク係の女性店員さんのやり取りは以下でご覧いただきたい。

――店員さんが自分で飲んでいるドリンクを3ついただきたいんですが……。

店員さん「……」

――本当に何でもいいんです、絶対に文句は言いません。カスタムも量も好きにしていただいて構いません。

店員さん「……じゃあ、△△△△△(季節限定メニュー)でどうですか?

――あ、店員さんが自分で飲むくらいオススメならそれでも……。

(中略)

少なくとも私の中で■■■(当該店舗)の印象は良くはならなかった。

実際の記事より引用・一部改変(当該記事はすでに削除されています。)

当該記事が公開されると、SNSでは批判が殺到。

「許可無しで社名挙げて、他社との接客批判記事作る上に、店員さんに迷惑をかける不審者でしかないね」
「取材許可取ってない時点で、面倒な客以外の何物でもないよ」
「これは、ある意味カスタマー・ハラスメントにあたるんじゃないのか?」

実際の批判コメントより引用・一部改変

この事態を受けた配信ニュースメディア編集部は、当該記事を削除したうえで下記の内容で謝罪文を公表しました。

当社メディアにおける不適切な記事についてのお詫び

2023年7月7日付けにて配信いたしました記事につきましては、取材方法及び記事内容について不適切な事象が確認されましたので削除させていただきました。

飲食店舗のスタッフ様に個人的な好みをお尋ねしたこと、また、回答いただけることを当然のことのように表現したことにつきましては、配信事業者として不適切であったといわざるをえず、執筆者及び編集部ともに深く反省しております。

当該記事によりご迷惑をお掛けした飲食店舗のスタッフ様、運営会社様及び不快な思いをされた皆様に深くお詫び申し上げます。

なお、現在、飲食店舗のスタッフ様、運営会社様に対しては、本件記事配信に至った経緯のご報告及び謝罪の機会をいただけるよう申し入れをさせていただいております。

また、執筆者及び編集部においても、現在、当該記事の執筆から配信されるまでの過程について検証作業を行っております。

今後、このような記事が配信されることのないよう十分に留意して努めてまいります。

◇◇◇◇編集部一同

実際の謝罪文より引用・一部改変

謝罪文公表後の行動が悪手

今回の炎上騒動においては、謝罪文公表後に悪手とされる行動をとったことが注目ポイントとしてあげられます。

ポイント①:検証結果の公表がされていない

謝罪文のなかでは、「現在、当該記事の執筆から配信されるまでの過程について検証作業を行っております。」と書かれていますが、2023年9月13日現在、検証の結果と検証をそれに基づいた対応策は公表されていません。

今回の謝罪文は、不快な思いをさせられた被害店舗と記事の閲覧ユーザーなど、様々な立場のステークホルダーに対しておこなった声明です。そして「検証」とは、やれば必ず「結果」が出るものなので、謝罪文を読んだユーザーは当然ですが結果も得られると思うでしょう。しかし、炎上から2ヶ月あまり経過した現在に至っても結果が公表されていないとなると、メディアサイト側は炎上が鎮静化したことで「結果を公表する必要がなくなった」と考えている可能性があります。

こういった対応は「今・現在」はそれでも良いのかもしれませんが、長期的なリスクマネジメントという目線で見た際に悪手と言わざるを得ません。なぜなら、「この企業は嘘を平気で突く」というレッテルが貼られてしまうからです。今は鎮静化しているかもしれませんが、炎上したという事実は半永久的にネットの海に残り続けます(デジタルタトゥー)。今後、当メディアサイトは別の件で話題になるかもしれませんし、同じような事件で批判を受けるかもしれません。そのたびに、今回の炎上は再びクローズアップされることとなりますし、何か批判があるたびに「まあ、あのメディアは嘘つきだから。」と言われ続ける未来が待っているのです。

炎上とは謝罪文も含めて、企業における歴史の1つとなります。この先、ユーザーに対して「誠実な企業でありたい」と考えているならば、炎上を真摯に受け止めるとともに、今できる精いっぱいの対応を行う必要があると言えるでしょう。

ポイント②:謝罪文とライターの態度に相違がある

2つめのポイントとして注目したいことに、当該記事を執筆したライターが「オープンな環境でSNSを利用している」ことです。当メディアサイトのライタープロフィール欄には、利用しているSNSのリンクがはられており、誰でもライターのSNSを閲覧することが可能です。

謝罪文内では「執筆者及び編集部ともに深く反省しております。」と記載があるため、さぞかし本人も反省しているのだろうと思いきや、炎上騒動にはまったく触れず通常営業のツイートをおこなっています。無理に謝ってほしいと思うのは問題の本質ではないとは分かりつつも、謝罪文と本人のテンションが違いすぎることに、なんだかしっくりこない」というユーザーも多い様子でした。

今回のように謝罪文でのみ反省する態度をみせる行為は、かえってユーザーから「うわべだけの謝罪だ」と捉えられかねません。企業としての誠意を見せたいという場合は、企業と従業員が徹底して謝罪の意思を見せることが大切です。

不正行為が問題視され炎上

ある中古車販売企業での不正行為が大炎上する事態となりました。

問題となったのは、中古車販売を中心にサービス展開をしている大手企業です。当該企業は2021年ごろから不正請求や不正行為などの内部告発が断続的に行われていましたが、2023年5月に大手週刊誌による暴露記事によって全てが日の元にさらされることとなりました。暴露記事では、「当該企業の工場長が不正行為のやり方を伝授する」というものであり、さらに不正行為を仄めかすメッセージのキャプチャも流出してしまいました。その後、7月に当該企業が調査報告書の内容を発表したことや、自動車保険を取り扱う3社が自動車保険金過払いの返還を求めたことで一気に注目度が上がり、批判が殺到する事態となりました。

この事態を受けた当該企業は謝罪会見をおこないます。しかし、副社長が謝罪会見に出席しなかったことや、謝罪会見における経営陣の言動について更に批判が殺到することとなり、炎上は完全に火に油状態となってしまいました。

謝罪会見の何が・どこが良くなかったのか?

では、実際の謝罪会見において何が・どこが良くなかったのか、について具体的に解説してまいります。

責任転嫁のような言い訳

今回の謝罪会見で最も批判を集めたのは「不正は経営陣のあずかり知らぬところで起こったものであり、不正をおこなったのは現場の従業員によるもの」という主張を一貫しておこなっていたことにあります。

今回、明るみに出たことで分かった不正行為の数は少なくとも1,200件以上に上ります。経営陣が不正を全く知らなかったと言い訳するには、少し厳しい件数であることは明確です。

また、2022年7月のレピュ研炎上レポートでも解説いたしましたが、自社の社員を大事にしている企業ほど好感度が高い傾向にあることが統計データからも見てわかります。

IBMコーポレーション& Morning Consult社 Special report 『Companies with purpse:The future of business』より引用・抜粋
https://www.ibm.com/blogs/think/jp-ja/global-purpose-study/

このようなユーザー感情がある中、公の場で責任転嫁をおこない、現場や従業員に責任を擦り付ける言動はかえって悪手と言えるでしょう。

主観的で曖昧な表現

今回の謝罪会見において、当該企業の代表取締役(当時)は「天地神明に誓って知らなかった。」と発言しました。天地神明とは自身の発言に嘘や偽りがないことを固く誓う際の常套句です。天地の神々に誓います、約束を破ったら罰してください、という意味合いです。

一見、誠実そうに聞こえる「天地神明に誓って~」という語句ですが、その実あまりロジカルではありません。本当に知らなかったことを伝えたいのであれば証拠を提示すべきですし、ユーザーとしてはいるかどうかも分からない伝説の存在に誓われても、本当にそうであるのかは伝わりません。ユーザーにしてみれば、「伝説の存在に誓うということは具体的な証拠もないのに自己弁護している」と捉えられてしまいます。

これと似た語句で使いがちなのが「しっかり」「ちゃんと」とした尺度が曖昧な表現方法です。自身や自社の誠意を精いっぱい伝えたいという思いから使用される頻度は多い表現ですが、こちらもどれくらいしっかりやるのか、どれくらいちゃんとするのかが伝わりづらく、かえってユーザー側を混乱させてしまう恐れがあります。

何かを真摯に伝えたい場合は、尺度が曖昧な表現ではなく、証拠や具体的な例を用いてロジカルに伝えることをお勧めします。

7月の炎上【傾向と分析】

記事冒頭でも解説いたしましたが、炎上件数が減少したことで一時は落ち着いたかと思われたSNS界隈ですが、7月に入り前月+8件と徐々に混乱を取り戻しつつある傾向がみられます。2023年7月までの1ヶ月炎上件数平均が24件であることを加味すると、今後も25件前後の炎上件数で推移していくと想定されます。

7月は「不正行為が問題視されて炎上した事例」がメディアによって特にクローズアップされたことで持ち切りとなりました。特に当該企業の謝罪会見では各社メディアが会見模様を中継し、SNSのトレンドにも多く名前があがりました。

不正や不適切行為によって謝罪を行う際に重要なことは、謝罪相手へのリスペクトを忘れない事です。具体的な例としては以下の通りです。

  • ステークホルダーに対するリスペクトを忘れない
  • 謝罪風の謝罪をおこなわない
  • 弁解や言い訳/責任転嫁をおこなわない
  • 謝罪会見での代読や原稿の読み上げ/質問の打ち切り/派手なパフォーマンスをしない

特に「ステークホルダーに対するリスペクトを忘れない」は、自社における今後の関係構築やファンの獲得を考えると重要なポイントです。謝罪において「誰に向けて謝罪をするか」は非常に繊細な問題です。多くの炎上事例において、企業を非難し、批判コメントを投稿するのは消費者ユーザーが大半となります。しかし、いざ謝罪をおこなった際の謝罪相手が消費者ユーザーではなかった場合、ユーザーは自身が蔑ろにされたと感じてしまい、かえって二次炎上や炎上の長期化を招いてしまう恐れがあります。

そのため謝罪を行う際には、「何のための謝罪なのか」「誰に対して謝るべきか」「問題の本質は何なのか」という炎上の分析をおこなうことは必要不可欠です。的外れな謝罪やターゲット違いな謝罪ほど見て滑稽なものはありません。企業としての誠実な姿勢を見せるためにも、本質をついた問題提起を積極的に行っていくことをお勧めします。

事例の分析で、炎上リスクのノウハウを蓄積

ジールコミュニケーションズが開催している無料のウェビナーでは、今回ご紹介した炎上事例の他にも、様々な事例をさらに深掘りする形で解説しております。ウェビナー中の炎上事例解説では、データに基づいた炎上トレンドや、具体的に注意すべき投稿内容についてお伝えしております。

ぜひ、弊社ウェビナーにご参加の上、今後のSNSリスク対策にお役立ていただければ幸いです。

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