企業炎上分析レポート【2023.08】

本レポートはレピュ研を運営する株式会社ジールコミュニケーションズが、独自の調査からデジタルリスクに値すると判断した事例を分析したレポートとなっております。2023年、毎月にわたって特に目立っていた。または特徴的な炎上事例とその発生要因等を解説し、どのような傾向・トレンドがみられるのかを追っていきます。企業または学校におけるデジタルリスクの管理やトレンドの情報収集に活用していただくことを目的として毎月発表しております。

2023年8月までの炎上発生件数推移

ジールコミュニケーションズの独自調査・判定より、2023年8月の炎上件数は26件となりました。炎上タイプの内訳は下グラフの通りです。

先月と比較して4件の炎上件数増加がありました。「個人」を発生源とした炎上事例は、7月の時点で大きな割合を占めていましたが、8月はさらに増加し、なんと月全体の半分が「個人」による炎上という結果に至りました。

ルッキズム的な投稿をした公式SNSアカウントが炎上

ある公式SNSアカウントの発言が不適切だとして炎上しました。問題となったのは関東圏内にある交通業社の公式SNSアカウントです。

今、弊社には3人の女性ドライバーがいますが全員20代です!しかも、めちゃめちゃ可愛いです。(中略)乗れたらラッキーですね~😊

元投稿より引用(現在は削除)/一部改変

この投稿がTwitter(現X)にされた2日後に、フォロワーを200万人以上持つ炎上系インフルエンサーに取り上げられて批判が殺到する事態となりました。また、炎上系インフルエンサーを発信源としてさらなる情報が寄せられる流れとなり、TikTokなどその他SNSでの不適切な情報発信が明らかになりました。

TikTokでの情報発信はTwitter(現X)と比較して更に露骨な性的情報発信がなされており、女性職員が食べ物などを加えている動画を多数投稿している、あからさまな性的語句が使用されているなど、全体的に過激な表現が多くみられました。

その後、炎上系インフルエンサーの告発により一機に炎上状態となった当SNSアカウントは、センシティブなアカウントと認定され凍結されてしまいました。

まるでSNSで客寄せパンダのように扱われている女性職員ですが、実際はフォロワーを10万人持つインフルエンサーで、2022年には地域の観光大使に任命されるなど積極的に活動をおこなっていました。しかし、企業の公式アカウントが炎上すると同時に女性職員のSNSも連鎖的に炎上してしまう事態となります。

時代に逆行した「ルッキズム」主義

「ルッキズム」という言葉をご存じでしょうか?

ルッキズムとは、look(外見、容姿)とism(主義)を掛け合わせた言葉で、日本語では「外見至上主義」と主に訳されます。外見至上主義という言葉が表す通り、外見の美醜をもって物事の価値を決める価値観のことを指すとともに、外見が劣っていれば対象を粗雑に扱っても良いというネガティブな意味合いを多分に含んでいます。

例えば、このような言葉を耳にしたことはありませんか?

  • 職場に外見が綺麗な人がいると華やかになる
  • あの企業には「顔採用」が存在するらしい
  • 白い肌こそが最も美しい
  • 体形がスリムな人ほど自己管理能力が高く、仕事が出来るはず

上記の例のように、外見の美醜が全ての価値観を左右した結果、本当は活かせるはずの能力を発揮できなかったり、イジメ・差別に発展するケースが往々にしてあるのです。

しかし昨今では、このルッキズム思考に注目が集まるとともに、脱ルッキズムの動きが加速化しています。その背景には2030年までの世界目標として掲げられているSDGs(Sustainable Development Goals)の影響が伺えます。SDGsで掲げられている17の目標の中には「10.人や国の不平等をなくそう」があり、細かく見ていくと「2030年までに、年齢、性別、障がい、人種、民族、生まれ、宗教、経済状態などにかかわらず、すべての人が、能力を高め、社会的、経済的、政治的に取り残されないようにすすめる。」という具体的なターゲットが設定されています。国連を中心として世界中の人や企業がSDGsに取り組んでいる昨今において、脱ルッキズムを図ろうという流れは道理にかなっていると言えるでしょう。

この脱ルッキズムの動きはSNS上でも同様ではありますが、一方で相反する傾向もみられます。それは、SNSを通して承認欲求を満たすために外見を美しくしたいという心理が、若年層を中心に加速化していることです。2019年から始まった新型コロナウィルスの影響によって、人々のコミュニケーションはダイレクトな環境からSNSを通したデジタル環境に大きくシフトしました。直接顔をみて話せるダイレクトなコミュニケーションと比べて、SNSを介したコミュニケーションは顔画像やプロフィールなど、相手の受け取る情報が限られているため、相手に提供できる少ない情報をどのように魅力的に見せることが出来るかが、良好なコミュニケ―ションのカギとなってきます。事実、この3年間で「顔を映す」SNSやコミュニケーションアプリケーションは劇的に進化し、自身をより良く見せるためのサービスやアプリケーションも競うようにリリースされました。このような背景から、SNSの主要ユーザーである若年層を中心に「自身を魅力的に見せたい」という欲求が高まっていることが見て取れます。

しかし、この流れは社会的な主流であるはずの「ルッキズム」とは相反する考え方となります。そのため、多様な思想のユーザーが存在するSNSというプラットフォームにおいては「反ルッキズム派」「ルッキズム肯定派」が存在し、各々の信条をもったユーザーによって小競り合いのようなリプライ(リポスト)合戦が繰り広げられることがしばしばあります。

個人的な信条はそれぞれかもしれませんが、やはり社会的な流れは圧倒的に「脱ルッキズム」です。企業としては、いざという時に「外見に関係なく、能力値によって物事を判断しています。」と言えなければ、炎上してしまうことは必至です。実際に、当該企業は下記のような投稿をおこなったことで、さらに批判的なコメントに晒される事態となりました。

ルッキズムに限らず、公式SNSアカウントを運用する場合は、個人の見解や社内の風潮や醸成された文化ではなく、社会的に肯定されている主義・主張を大元とした情報発信を心がけることが重要です。多様な主義主張の入り乱れるSNSだからこそ、社会をより良くするための投稿をおこなう必要があると言えるでしょう。

大学のミリタリー研究会が「ナチス」のコスプレをおこない炎上

ある大学のミリタリー研究会(仮称)が公の場で「ナチス」のコスプレをおこない、SNSに投稿したとして炎上しました。

問題が発生したのは、国内最大規模の同人誌即売会の会場でした。当研究会は、主軍事や軍事的歴史等を研究し、他サークルと交流をおこなうなどの活動をおこなっており、当即売会において、研究会メンバーは襟元にSS襟章(ナチス・ドイツの親衛隊が使用していた階級章)をつける、鉤十字の入ったタイピンを指してナチス親衛隊の制服を着用する等をおこない、その様子を研究会の公式Twitter(現X)に投稿しました。

投稿後まもなく、Twitter(現X)のコメント欄には批判コメントが殺到し、翌日には投稿を削除し、下記の内容で謝罪文を掲載しました。

お詫び

この度、8月13日の同人誌即売会における広報写真としてナチス親衛隊の制服を着た当会会員の写真を用いて、Twitter(現X)上で宣伝を行ったところ、皆様から数多くのご意見及びご批判を頂くこととなりました。

不適切な広報写真の投稿により、皆様に多大なご迷惑をお掛け致しましたことを深くお詫び申し上げます。

広報写真としてこのような写真を用いることは、思慮に欠ける行動であったと深く反省しております。

今後は、SNS上に写真を掲載するときは、二名以上で確認してから掲載するなど、再発防止策を徹底し、このような形で皆様にご迷惑をおかけすることのないよう努めてまいります。

改めて皆様には多大なご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。
2023年8月〇日
○○大学 ミリタリー研究会

実際の謝罪投稿より引用・一部改変

当炎上は多くのネットメディアに掲載され、結果として一般ユーザーにおけるミリタリー趣味への偏見や、大学のブランド毀損のきっかけとなってしまいました。

国によって異なる「戦争の認識」

昨今、「戦争」を皮切りにした炎上が多発しています。同じく8月にはアメリカを発端とした「原爆」に関する炎上が発生しています。この炎上は、当該ナチス炎上と同じように、公式SNSアカウントがコンテンツのプロモーション(PR)の波に乗ろうとした結果、戦争という禁忌に抵触し炎上して今しまいました。そもそも「戦争」というテーマは、そのセンシティブさ故に「SNSで安易に触れてはいけない」という風潮があります。なぜ今回。これほどまでに「戦争」を起点とした炎上が頻発するのでしょうか?

それは、各国の「戦争」や「原爆」に関する認識の違いが大きく起因しています。

世論調査会社ユーガブによる調査データ参照(2015年)

上記のグラフは、アメリカの成人ユーザーを中心にとられた「日本への原爆投下は正しいことだったか?正しくないことだったか?」というアンケート調査結果です。グラフによると、若年層は正しくないという回答がやや上回るものの、全体では「原爆投下は正しかった」という回答が64%を超えており、アメリカにおける原爆への印象を物語っています。これは、原爆投下を「二度と起きてはならない、悲惨な行為」と捉える大多数の日本人が持つ考え方と大きく異なります。これは、自国が戦勝国か敗戦国か、政治や教育方針などと深い関わりがあります。日本では「原爆投下は二度と起きてはならない悲惨な歴史」と教育に織り込みます。それは、日本という国が世界唯一の被爆国であり、原爆によって葬られた尊い命と、凄惨な記憶が生々しく残っているからです。一方でアメリカでは、原爆投下に対して「第二次世界大戦を早期終息させるためのやむを得ない手段だった」と公式見解で述べています。アメリカの教科書は日本と違い、政府による校閲などは基本的にありません。しかし、政府の主張と大きく異なる教育をおこなう学校や出版社はあり得ないのではないでしょうか?

このような「認識のズレ」は原爆に関わらず、「ナチス」や「ホロコースト」、その他の国際諸問題に関しても同じことが言えます。歴史上最も悲惨なジェノサイド(大量虐殺)の一つといわれているナチス・ドイツのホロコーストですが、いったいどれだけの日本人がホロコーストについて詳しく知っているのでしょうか?パレスチナ問題の原因とは何なのでしょう?東アジアの領土問題はどのような経緯で起こったのでしょうか?いずれも大変センシティブな国際問題ですが、日本国内における問題意識はまだまだ希薄です。

こういった国際問題の等閑視は、インターネットの存在しないクローズドな環境であればいざ知らず、SNSを利用して世界に発信している公式アカウントにとって見過ごすことの出来ない問題です。人間がSNSを利用して情報発信をする以上、主義・主張の偏りやバイアス(無意識の先入観)がどうしても出てしまいます。そういった、個人ベースに由来する偏見によって発生するのが「炎上」です。企業として公式SNSを運用する際には、同じ人間と言えども国や地域、民族によって異なる歴史と信条を持っていること。相手をリスペクトし、デリケートな問題には深い理解が必要だというコミュニケーションの大前提を改めて意識することが大切なのです。

事例の分析で、炎上リスクのノウハウを蓄積

ジールコミュニケーションズが開催している無料のウェビナーでは、今回ご紹介した炎上事例の他にも、様々な事例をさらに深掘りする形で解説しております。ウェビナー中の炎上事例解説では、データに基づいた炎上トレンドや、具体的に注意すべき投稿内容についてお伝えしております。

ぜひ、弊社ウェビナーにご参加の上、今後のSNSリスク対策にお役立ていただければ幸いです。

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