本レポートはレピュ研を運営する株式会社ジールコミュニケーションズが、独自の調査から「企業の炎上」として判別した事例の分析内容です。先月特に目立っていた炎上事例とその発生要因を解説し、月間を通してどのような傾向、トレンドが見られるのか解説しています。
企業におけるWeb・SNS、及びレピュテーショナルリスクの管理、評価、対策等に活用していただくことを目的として毎月発表しております。
2022年5月の炎上件数の推移
ジールコミュニケーションズの独自調査・判定より、2022年5月の炎上件数は25件となりました。炎上タイプの内訳は下グラフの通りです。
2022年の2月から4月にかけて増加傾向にあった炎上件数ですが、若干発生件数は減ったものの、依然として発生頻度は高い状態です。5月は個人での炎上件数が大きく減少し、法人での炎上件数が増えています。また、炎上が頻発していたというよりは、大きな炎上や事件で、その他の炎上の印象が薄くなってしまったという傾向もみられました。
生配信中の差別発言が問題視され炎上
eスポーツ選手が、ゲームの生配信中に呟いた差別発言に批判の声が集まりました。問題の発言をおこなったのは、世界を代表するeスポーツチームのリーダーを努めている人物であり、eスポーツ界隈では大きな発言力を持っていました。
5月1日のゲーム生配信時に呟いた「障がい者やろ マジで」という発言が配信音声にのると、
「障がい者や差別ではないか?」
「自然と呟いているってことは、普段から障碍者への差別意識をもっているってことだよね」
「マナーや常識が備わっていないのでは?」
という批判の声が殺到し、炎上する事態となりました。この炎上をうけた運営会社は、翌日公式HPを更新し次のような見解を示しました。
当社としましては、いかなる差別も容認しておりません。当該発言は極めて不適切であり、人権問題の観点からも許容できるものではありません。
実際の謝罪文より引用
当該選手の発言はひとり言だったとしても、配慮と自覚に欠けるものであったと、事態を重く受け止めております。
さらに、翌日3日には、当該eスポーツ選手への
- 2022年12月までの活動停止処分
- 当該機関の報酬全額カット
- 社会貢献活動への参加
を公表し、炎上は収束へと向かいました。
なぜ、eスポーツ界隈は炎上しやすいのか?
2022年2月に炎上した「身長170cm以下の男性は人権がない」という発言者もeスポーツの選手でした。当選手は、スポンサー契約を打ち切られるなど、厳しい処分が課されています。
ではなぜ、eスポーツ界隈の不祥事が頻発しているのでしょうか?
「常識」という曖昧なルール
SNSや動画配信サービスの発達により、我々個人が世界に向けて主張・情報発信出来る機会が増えました。それ以前にあった年齢や職業・国境といった規制がなくなり、自由に情報発信をおこなえるようになったおかげで、良くも悪くも「実力のある人間が台頭していく」という傾向が強くなっています。それと同時に、個人個人が負うべき責任も重くなっているのということも現実です。先述したように、ネット社会は実力主義の世界なので、「子供だから…」「経験が少ないから許してあげよう」という感覚はなく、あくまで自分の行為や影響力に対して、誰もが責任を負う必要があるという風潮があります。特に新興産業の一つであるeスポーツではそれが顕著に見られます。
問題は、昨今の技術発達に伴って整備されるべきルールが明文化されていない点です。ルールやポリシーといった本来なら明文化されて運用されるべきものが、従業員や所属選手、そしてそれを取り巻くSNSユーザーの裁量と善意に委ねられているため、何かと注目を集めがちな新興産業であることや、や時事的なタイミング、状況によって科される責任の重さが変わってしまうという現象が起こっていると推測されます。
実力主義ゆえの経験不足
先述したように、新興産業であるeスポーツは実力主義の世界です。年齢・住所・性別に囚われることなく、実力とチャンスさえあればのし上がれる、そんな世界です。実際に、今回の炎上を引き起こした選手は弱冠20歳でした。一方で、本来ならば社会経験や学生経験を経て培われるべきマナーやリテラシーといった観念がないまま、多くのユーザーが情報発信をおこなっているという現実があります。それは、若年層故にマナーやリテラシーを落とし込む研修の機会が少ないため、意図せず炎上を招いてしまうという現象がおこっています。
運営側の落とし穴
では、今回の炎上で運営会社が見落としていた落とし穴とは一体何なのでしょうか?それは、運営企業として選手に守ってもらうルールを制定し、それを落とし込むという炎上を防ぐための事前準備が不十分だったという点です。
今回の炎上に際して、運営会社は迅速な謝罪文および、対応策・処分の公表をおこなっていたことから、炎上時のエスカレーションフローを事前に準備していたと推測することができます。炎上のエスカレーションフローは、炎上を防ぐための「社内体制構築」の一貫です。
社内体制構築には3つのフェーズが存在します。
- リスクの抑制
- リスクの把握
- 有事の際の対応フロー整備
の3つです。
炎上時のエスカレーションフローの制定は、③有事の際の対応フロー整備にあたります。今回の炎上においては、社内体制構築が進められており、③有事の際の対応フローが整備され、適確に運用されていたと推測されます。一方で、うまく運用されていなかったフェーズは①リスクの抑制です。運営企業の報告書によると、コンプライアンス教育を実施していたとのことですが、実際に炎上が発生してしまったことからも、内容が不十分だった、または従業員・所属選手に響く内容ではなかったのではないでしょうか。①リスクの抑制として研修をおこなう際に重要な事は、受講者にどれだけ当事者意識を芽生えさせることができるか、という点です。せっかく研修をおこなっても、炎上を自分事と捉えてもらえなければ意味がありません。本当に効果のある研修をおこなうためにも、どれだけ受講者に自分意識を持たせることができるかという観点で研修をおこなうことをおすすめします。
外国籍学生の説明会出席を拒否して炎上
外国籍学生の会社説明会出席を拒否した企業が炎上しました。
問題となったのは大手飲食チェーン企業です。炎上のきっかけは、就職活動中の学生がTwitter上に投稿したある告発ツイートでした。
ハーフだけど日本生まれ日本育ち国籍日本なのに向こうから急に説明会キャンセルされたんだけど!!!こんなんアリなん?!一番深いなお祈りメールだが
実際の告発ツイートより引用
倒産しろまじ
文章とともに投稿された画像には、
外国籍の方の就労ビザの取得が大変難しく、ご縁があり内定となりました場合も、ご入社できない可能性がございます。
と記されていました。
この告発ツイートによって当該企業は「外国人差別だ!」として大炎上をおこしてしまう事態となってしまいました。この炎上をうけて、当該企業は謝罪文を公表することとなりましたが、依然として炎上は燻っている状態です。
3ヵ月連続炎上!企業としてのリスク対策とは?
5月は「外国人差別」として炎上した当該企業ですが、2022年に入り炎上した回数は3回目、3ヵ月連続となります。ここで、3ヵ月の炎上内容を振り返ってみましょう。
この連続炎上により、当該企業のレピュテーションは著しく損なわれることとなりました。実際に、当該企業が5月26日におこなった株主総会においては、株主から度重なる不祥事および炎上に関して不満の声が噴出。質疑応答は野次の嵐となり、最も味方につけるべき株主の信頼をも損ねてしまった様子がみられました。
炎上を通して明らかになったSDGsウォッシュ
今回の連続炎上をうけて、ユーザーの目にも明らかになったのは、実態や中身の伴わない企業目標という現実です。当該企業は公式HPにて、ダイバーシティやサステナビリティなど、いわゆるSDGsを積極的に取り組んでいるという旨を明確に主張しています。にもかかわらず、外国籍の学生を排除する、生娘シャブ漬け戦略という発言をするなど、意識が行き届いていない面が見受けられます。このように、実態の伴わないSDGsの施策のことを、SDGsウォッシュと呼びます。
経営陣への研修不足
今回の炎上にて特筆すべきは、その3炎上のほとんどに、経営上層部が関与しているという点です。SDGsやリスクマネジメントは、落とし込みの一貫として研修をおこなうことが一般的ですが、経営陣への研修は、上長にレクチャーをおこないづらいという点から、なかなか落とし込みがおこなえていないという企業様も多くみられます。
しかし、企業の顔として表舞台に出ることの多い経営陣こそ、しっかりと研修をおこない、不用意な発言を控えなければならないということは事実です。企業の方針やマナーの落とし込みを末端まで行き渡らせることも重要ですが、経営陣の場合は不用意な発言や行為をおこなった際に情報が広まる速度が変わります。瞬く間に炎上が広がり、対応
策を協議する間もなく批判や取材が殺到してしまう事態となりかねません。
組織として、経営陣・上層部への研修はおこないにくいというのは常ではありますが、外部企業に委託するなど、別ルートを用いて落とし込みをおこなうこともお勧めです。
5月の炎上【傾向と分析】
4月と比較して炎上の勢いに陰りは見えてきたものの、依然としてコンスタントに炎上が発生しているという印象の強い月となりました。また、先月までは月に一度のスパンで「ジェンダー」に関する炎上が発生していましたが、5月はその他の法人炎上や不祥事・訃報等にかき消され、あまり大きな炎上とはなっていません。
度重なる法人炎上で再注目されつつあるのが、リスク研修です。特に、1件目で解説したeスポーツ選手の炎上然り、2件目の炎上事例で解説したような人事や経営陣然り、企業や組織の顔となり積極的に情報発信をおこなっている人々に対しての研修の重要性が顕著に表れています。
炎上防止策として、リスク研修は有効な手段ではありますが、「当事者意識を芽生えさせる」という点にフォーカスした教育コンテンツでなければ、研修の効果はなかなか向上しません。受講者が研修内容に共感し、普段の勤務態度や生活に取り入れようという意識がなければ、研修をおこなっても徒労に終わるケースが多いです。企業として、効率的かつ効果的な教育をおこなうためにも、一度教育コンテンツを見直してみることをお勧めします。
事例の分析で、炎上リスクのノウハウを蓄積
ジールコミュニケーションズが開催している無料のオンラインセミナーでは、今回ご紹介した炎上事例の他にも、様々な事例をさらに深掘りする形で解説しております。セミナー中の炎上事例解説では、データに基づいた炎上トレンドや、具体的に注意すべき投稿内容についてお伝えしております。
ぜひ、弊社セミナーにご参加の上、今後のSNSリスク対策にお役立ていただければ幸いです。