本レポートはレピュ研を運営する株式会社ジールコミュニケーションズが、独自の調査からデジタルリスクに値すると判断した事例を分析したレポートとなっております。2023年毎月にわたって、特に目立っていたまたは特徴的な炎上事例とその発生要因等を解説し、どのような傾向・トレンドがみられるのかを追っていきます。企業または学校におけるデジタルリスクの管理やトレンドの情報収集に活用していただくことを目的として毎月発表しております。
目次
2023年6月までの炎上発生件数推移
ジールコミュニケーションズの独自調査・判定より、2023年6月の炎上件数は14件となりました。炎上タイプの内訳は下グラフの通りです。
2023年上半期の炎上発生件数は、148件とおよそ150件近くを記録しました。これは、昨年2022年上半期の炎上発生件数である140件と比較して一ヶ月につき約1.3件炎上が増えている計算となります。
医療従事者の働きを無碍にするような発言をして炎上
ある政治家がSNSで発言した内容に批判の声が殺到しました。
問題視されたのは、ある地方自治体の政治家が医療従事者に向けてSNSで発信した情報です。当政治家はTwitter上で新型コロナウィルスの感染対策について、「医療従事者のみが頑張ったわけではないのだから、医療従事者に感謝を、というスローガンは絶対に使わない。もっと苦しい人もいる。(要約)」という旨の発言を行いました。つまるところ、医療従事者は最優先されることに慣れすぎていて、それを賞賛するかのような社会の風潮もおかしいから是正する必要があると主張しているのです。
それに対して、SNS上のユーザー、特に医療従事者からは批判が殺到。「医療従事者」が最優先されたのではなく、命を守るために「医療」が最優先されてきただけなのではないかという批判意見が多く集まりました。当該投稿は既に削除されていますが、大手まとめサイトやニュースサイトがこぞって記事を掲載し、炎上は瞬く間に広がる結果となりました。
SNS あちらを立てれば こちらが立たぬ
「医療従事者の方々には感謝の気持ちでいっぱいです。併せて、未曾有の状態で我慢を強いられている方々や、思うようにいかなかった方々の忍耐強さにも目を向けて、おたがい鼓舞しあっていきましょう。」
当該政治家の発言をマイルドに言い換えると、このような感じになります。弊社分析チームの考察では、今回の炎上は当該政治家が持つ思い入れの強い主張が投稿に反映された結果、SNSユーザーにとってネガティブに感じられたのではないかと分析しています。
政治家個人の強い思い入れ
2019年から続いた新型コロナウィルスの影響により、生活のみならず、就労やライフイベント、経済にいたる様々なスタイルの転換を余儀なくされました。それにより、夢を諦めざるを得なかった人や、苦境に立たされた人も多くいらっしゃいます。当該政治家はそんな逆境にいる人々に寄り添い、その目線に立った政治をおこなっていこうという強い思いを抱いていることが、実際の発言内容からも分かります。
「医療従事者に感謝を」は新型コロナウィルスによって医療機関の負荷が大きくなっていく中、尽力されている医療従事者の方々に感謝の意を込めてSNSを中心に広がったフレーズです。もちろん、ここでは医療の負荷についての話をしているので、医療従事者がフォーカスされるのは当たり前なのですが、強い思いを持つ政治家はこのように考えてしまいます。「なぜ、医療従事者だけが賞賛されて、日々の生活を我慢している人々は讃えられないのか。」と。
そもそも、医療従事者の労力と、窮屈な生活を余儀なくされている人々については別の話なので、別途キャッチフレーズを作って拡散すれば良い話なのですが、当政治家にとっては「医療従事者に感謝を」というキャッチフレーズは医療従事者のみを特別に持ち上げているかのように映ったのかもしれません。このような、政治に対する熱い思いが投稿に反映された結果、まるで医療従事者が持ち上げられることに慣れすぎてしまっているかのような言い回しをするに至ってしまいました。
責任者・経営者としての発言重要性
昨今では、会社の代表取締役や経営者、政治家の方々が、個人のSNSアカウントを用いてブランド知名度や主義主張の拡散をする活動が当たり前となりました。ところが、経営者や責任のある立場のユーザーがSNSをPRのツールとして活用しようとした時、ある点に注意して利用していく必要があります。それは、一般のユーザーと比べて、良い意味でもあるいい身でも目立ちやすいということです。
経営者や政治家など責任ある立場のユーザーは、一般のユーザーと比べて知名度も高く目にも止まりやすいため、どちらかというと公式SNSアカウントと同じような扱いをされるケースが多くあります。そのため、公式アカウントと同様に、アカウント内での情報発信が企業や所属団体としての公式見解として取り扱われる傾向が高いのです。とは言え、個人アカウントであることに違いはないので、広告や集客のみの情報発信ではユーザーの興味も削がれてしまいますし、逆に過激すぎる発言をしてしまえばあっという間に炎上してしまいます。責任ある立場でSNSアカウントを活用するということは、個人利用としてのSNS特性と公式としてのSNS特性の二つを併せ持つ状態にあると言えるでしょう。
トイレの利用問題で公共機関が炎上
現在、目下の課題であるLGBT法案にまつわる炎上事例です。抗議の声を上げたのは若干政治的な主張の強い一般のSNSユーザーでした。
イメージ図のような投稿がなされた途端、瞬く間に拡散・批判の嵐。当該駅には問合せが殺到し、SNSは炎上状態となりました。この炎上騒動に対して、当該路線公式は「このような場合は、通報され次第対応をおこなう」と回答していますが、批判投稿のほうが大きく拡散されてしまった今、当該路線のイメージが覆る可能性は低いと見積もられます。
情報の錯綜と、精査の重要性について
直近の政治的ニュースにおいて、最も注目度の高い「LGBT法案」。この新法案に関して、様々な情報や憶測、主義主張が錯綜し、法案の本質やメリット・デメリットが見えづらくなっている現状があります。新法案の是非について、この場では言及いたしませんが、少なくともある一定期間までLGBTに関連する炎上や批判のニュースはコンスタントに続いていくことが予想されます。
SNSにおける情報収集で最も注意したいことの一つに、「匿名ゆえに事件や事故をでっちあげられてしまう。」という危険性があります。SNSでトレンドに上がりやすい話題や情報は、情報発信したのが個人だとしてもトレンドとして祀り上げられる可能性は非常に高くなります。そうすると、多くのSNSユーザーがこぞって真偽の不明な情報を発信し始めるので、「トレンドになっている情報の出どころや真偽が分からず、デマ情報に踊らされてしまった。」という事態になりかねません。逆もまた然りで、「本当のことを訴えたにも関わらず、様々な事象に打ち消されて、なかなかピックアップされないまま終わってしまう。」という事態も想定されるため、本当に意見や協力を求めているユーザーの声が埋もれてしまう懸念もあります。
これは、情報の受け取り手側にとっても大きなデメリットがあります。情報収集、特にコンスタントなSNSのトレンド把握が求められる企業のSNS担当やリスク担当にとっては、短い業務の中で正確な情報を収集していく必要があるという点での不都合が想定されます。混乱した状況下でデマ情報をつかまされたあげく、その情報に踊らされてしまい自らが根拠のない情報発信をおこなってしまう可能性も考えられるからです。
混沌としている情報やトピックスの情報収集や精査を行う際には、情報発信の根源とその正確性、正当性を見極めたうえで自社の活動方針やリスク対策に落とし込んでいくことをお勧めいたします。
6月の炎上【傾向と分析】
冒頭でも軽くお見せした炎上の発生件数ですが、先月から引き続いてかなり落ち着きを取り戻しているかのように見受けられます。しかし、前年度(2022年)上半期の炎上発生件数を確認すると、上半期は2022年6月に向かって増加傾向にあったことが分かります。また、昨年度の炎上発生件数ピークは2022年6月であり、その後の政治的インパクトで一気に落ち着きを取り戻したといういきさつがあります。選挙や突発的な事件、事故によって炎上の発生件数は大きく左右されるため、一概に「炎上件数が多いからその月は荒れている」「その月は炎上が異様に少なかったから来年も安泰だ」とは言えないことが分かります。
そのため、月の炎上件数やトレンドに関してリサーチをおこないたい場合は、知りたい情報に関係するイベントや事件・事故などを、現在・過去・未来、時系列を問わずに精査していくことをお勧めします。
事例の分析で、炎上リスクのノウハウを蓄積
ジールコミュニケーションズが開催している無料のウェビナーでは、今回ご紹介した炎上事例の他にも、様々な事例をさらに深掘りする形で解説しております。ウェビナー中の炎上事例解説では、データに基づいた炎上トレンドや、具体的に注意すべき投稿内容についてお伝えしております。
ぜひ、弊社ウェビナーにご参加の上、今後のSNSリスク対策にお役立ていただければ幸いです。