企業炎上分析レポート【2023.12】

本レポートはレピュ研を運営する株式会社ジールコミュニケーションズが、独自の調査からデジタルリスクに値すると判断した事例を分析したレポートとなっております。2023年、毎月にわたって特に目立っていた。または特徴的な炎上事例とその発生要因等を解説し、どのような傾向・トレンドがみられるのかを追っていきます。企業または学校におけるデジタルリスクの管理やトレンドの情報収集に活用していただくことを目的として毎月発表しております。

2023年の炎上発生件数推移まとめ

ジールコミュニケーションズの独自調査・判定より、2023年11月の炎上件数は16件となりました。炎上タイプの内訳は下グラフの通りです。

2023年の炎上件数統計は272件と判定されました。全体を俯瞰してみると、炎上件数の多い月と少ない月の数字が極端に違うことが分かります。また、突出して炎上件数が多い月もバラけており、〇月だから炎上件数が高くなる傾向にあるとは一概には言えません。

上記は、2022年と2023年の炎上件数を比較したグラフです。2022年に最も炎上が多かった6月はホモフォビック的なミームが爆発的に流行し、それに関連する炎上が頻発しました。一方で2023年に最も炎上が多かった3月は回転寿司の不衛生動画をはじめ、いわゆる迷惑動画炎上が一斉を風靡し話題となりました。

広告のキャッチコピーに批判が殺到して炎上

ある企業広告のキャッチコピーに対して批判が寄せられ炎上しました。

問題となったのは、ある介護職を手掛ける転職サービス会社が電車内に掲載した広告でした。「歳をとるのは怖くない。だって娘は介護士だもの。(一部改変アリ)」というキャッチコピーとともに、笑顔の3人家族が映っています。一見すると何の変哲もない広告に見えますが、この広告に対して、

娘にタダで介護をさせる気か?奴隷じゃないんだぞ?
娘に老後の世話をさせる気マンマンで胡坐を掻いている。みっともない。
介護職として腹立たしい!介護はボランティアじゃない!!

という意見が集まり、あっという間に炎上状態となりました。幸いなことに事業会社の名前があまり表沙汰にならなかったため、会社名がトレンドに上がることはありませんでしたが、このキャッチコピーはNG広告としてお蔵入りすることになりそうです。

2019年と2023年、意識の違いとは?

実はこの広告、確認できる限りでは2019年から掲載されている比較的古いものでした。では、なぜこのタイミングで問題視されることとなってしまったのでしょうか?

それは、広告企画や広告代理店など、プロモーションに携わる担当者が、時代や意識の変化に合わせて価値観をアップデート出来ていないからではないかと推測されます。

介護にまつわる問題自体は以前からトピックとして世間を騒がせていました。しかし、2021年に当時信任したばかりの岸田総理が介護職の賃上げを表明すると加速度的に勢いを増し、今や若者だけでなく全世代にとって注目の的となりました。

さらに、「介護」とは、女性蔑視やLGBTQに並んでセンシティブなテーマの一つに挙げられます。介護職の低賃金問題のみならず、老々介護や身内での介護問題など、課題は山積みです。特に、団塊世代(第一次ベビーブーム世代)が老年期に差し掛かった現在、介護はどこの家庭でも起こり得るありふれた問題であると同時に、誰しもが経験しているが故に他者と共感し、不快感を抱きやすいテーマでもあります。

人々や社会の意識は日々アップデートされていくものです。介護問題がまだそこまで表面化していなかった2019年当時は炎上を免れたものの、2019年と2023年の「当たり前」は大きく異なります。2019年時点では、子供が親の面倒をみることはある程度当たり前のことだったのかもしれませんが、2023年現在、子どもにだってどのような人生を送るかを決める権利があるということは至極当たり前の考え方となりました。介護職は尊い職業ですが、その分苦労も多く、一筋縄ではいかないものだという考え方も広まりつつあります。たしかに扶養義務というルールがある以上、親の介護は行う必要がありますが、施設を頼るという選択肢も一般化されつつあります。このように介護に対する価値観が変わりつつある中、いまだに「介護は子供がするものだ」というレッテルを貼り、介護の苦労だけが独り歩きして、「でも娘が介護士だから上手いことやってもらえるはず」「娘が介護士だから無料でサービスを受けられる」と決めつけるかのようなキャッチコピーは、介護職に従事している人だけではなく、介護を受けている人たちへの侮辱にもなりかねません。

広告や情報発信を行う際には、社会やユーザーの価値観や意見に対して敏感になり、そして自分自身の価値観もアップデートしていくことは鉄則と言えるでしょう。

出版予定のジェンダー関連本に批判が殺到

発売予定だったジェンダーに関する書籍が、SNSの批判コメントが殺到したことを受けて出版中止となる事態が発生しました。

問題となったのは、ある大手出版社から発売予定のジェンダー関連書籍でした。元は米国の女性作家が執筆した『あの子もトランスジェンダーになった~SNSで伝染する性転換ブームの悲劇~』(原題:Irreversible Damage: The Transgender Craze Seducing Our Daughters 回復不能なダメージ:娘たちを唆すトランスジェンダー・ブーム)という書籍で、今回翻訳という形で日本語版が出版される予定となっていました。しかし、書籍のタイトルに関して「トランスジェンダー差別を助長する」という批判がSNSで相次ぎ、結果的に出版社は発売を見送る形となりました。

あちら立てればこちらが立たぬ、SNSの対立構造

「SNS上には様々な価値観や思想をもったユーザーがいるため、誰もが傷つかないような情報発信が必要である。」という考え方は、SNSを利用するにあたって最も重要になってきます。一方で、「SNSの情報発信は落書きと一緒なので、何を書いても良い。」という通説もいまだ蔓延っており、この相反する考え方によって、SNSではある種の対立構造が出来上がっています。

今回の炎上で問題視されたのは書籍の趣旨である「未成年のトランスジェンダー問題」です。未成年特有の精神状態が自身をトランスジェンダーだと誤認させる原因だとする問題ですが、これに対して、「未成年によるトランスジェンダーを気の迷いとするのは、当事者を傷つけ、かつ自死などの悪影響を招きかねない。」という批判が多く寄せられたのです。しかし、これに対する意見としてSNS上では「まだ日本では未発売の読んでいないであろう本を批判することは、焚書坑儒と同じなのでは?」「言論の自由を奪いかねない所業だ。」などといった反論が多く寄せられました。

この2つの意見は、どちらか一方が悪いということはありません。正義の反対は悪ではなくまた別の正義ともいうように、どちらも信念をもって何かを守るために意見していることには変わりないのです。

このように、決着の付きづらい意見の論争がSNSでは頻発しています。論争が起こるタイプの炎上は、メディアなどで取り上げられることも多いことからユーザーの記憶に残りやすく、長く企業のブランドイメージに影響することが懸念されます。

この話を企業のSNS情報発信に置き換えた場合、どのようなことに注意すべきなのでしょうか?

それは、論争が起こりやすいテーマを避けた情報発信をすることです。
論争が起こりやすいテーマはいくつか挙げられますが、ジェンダー論や女性の性的消費と捉えられかねない表現は、特にSNSユーザーからピックアップされやすい傾向にあります。また、人はアンコンシャスバイアスという無意識の先入観を多く持って生活しています。この先入観によって、無意識に差別的な情報発信をおこなってしまい、結果として差別を差別と認識するユーザーと出来ないユーザーの間で論争が発生してしまうことも良くあるケースとして挙げられます。

クリエイティブチェックの重要性

このような論争を招きかねない情報発信を避けるためのシステムとして、「クリエイティブチェック」があります。クリエイティブチェックとは、情報発信予定である1つのクリエイティブを異なる属性を持つ複数人でチェックすることで、多角的な視点から表現や情報に不備がないかどうかを判断するフローのことを指します。ここでポイントなのは、「異なる属性」というものが第三者機関も含めるということです。クリエイティブチェックを部署内や組織内で完結してしまうと、その企業や組織内で無意識のうちに蔓延っているアンコンシャスバイアスによって、情報の不備を見逃してしまう可能性があります。そのため、組織外からの目線としてクリエイティブやコンプライアンスの専門企業によるクリエイティブチェックをフローとして通すことが重要になってきます。

また、情報の鮮度を損なわないために、このクリエイティブチェック体制を高速で回すことの出来る組織体制を構築する必要があります。企業としてSNSで効果的で、かつ、炎上や論争に備えたリスク体制を両立させるためにも、クリエイティブチェック体制の強化には注力する必要があると言えるでしょう。

事例の分析で、炎上リスクのノウハウを蓄積

ジールコミュニケーションズが開催している無料のウェビナーでは、今回ご紹介した炎上事例の他にも、様々な事例をさらに深掘りする形で解説しております。ウェビナー中の炎上事例解説では、データに基づいた炎上トレンドや、具体的に注意すべき投稿内容についてお伝えしております。

ぜひ、弊社ウェビナーにご参加の上、今後のSNSリスク対策にお役立ていただければ幸いです。

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