「忘れられる権利の特徴」「忘れられる権利の事例と使い方」について、風評被害対策の専門家として解説します。
忘れられる権利とは、ネットにある自分の隠したい情報を削除してもらうための権利です。ただ、権利を使った事例が少なかったり、どういう場合に権利が使えるのか条件が難しかったりと、いろいろと障壁が多いのが問題です。
そこで今回は、デジタルリスクの専門家として「忘れられる権利の特徴・事例・使い方」について、詳しくまとめました。ネット上の個人情報漏えいに悩んでいる方や、自分の写真がアップされて消したいと思っている方、プライバシー侵害から身を守りたい方は必見です。ぜひ一緒に問題を解決していきましょう!
目次
忘れられる権利の特徴を知ろう
忘れられる権利とは?
忘れられる権利とは、2012年にEUが発表した一般データ保護規則案に組み込まれた権利であり、ネット上に掲載された個人情報やプライバシー侵害に関する情報を削除してもらうことを指します。「個人への誹謗中傷に関する情報の削除」も忘れられる権利に当てはまります。
SNSやブログ、掲示板を通してプライバシーの侵害を受けたり、誹謗中傷の被害にあったりした人が増えてきたため生まれた権利で、世界各国で忘れられる権利の認知度は高まってきています。忘れられる権利は他の呼び方として、消去権・削除権・忘却権とも言われています。
知る権利との対立とは
日本国憲法には「知る権利」という権利があります。知る権利とは、国民が自由に情報を知ったり、国に情報公開を求めたりできる権利のことです。日本では、憲法に「知る権利」がある以上、忘れられる権利とは真逆の権利なため、2つの権利を両立させることがとてもむずかしい状態にあります。
例えば前科のある人が、忘れられる権利によってネット上の犯罪履歴情報を消したとき、知る権利を侵害してしまいます。ネットの情報は、消すと知る権利の侵害だと言われ、消さないと忘れられる権利の侵害だと言われるため、対立する2つの権利をどちらも尊重するのは難しい問題なのです。
日本における忘れられる権利とは
日本では忘れられる権利は認められていません。知る権利と対立する以上、正当な権利であると主張するのにはまだまだ時間がかかるようです。ただ、海外では認められているため、日本においても忘れられる権利の事例を用いて説得する余地はあるといえるでしょう。
忘れられる権利を使う3つのパターン
パターン1:過去の過ちを消したい
犯罪歴や逮捕歴を始めとした、過去のさまざまな過ちを忘れられる権利で削除するパターンです。犯罪までいかなくても、小さな過ちも当てはまるでしょう。
過去の過ちがネット上に存在し続けると、改心して真面目に生きようと思っても不利な環境下で過ごさなければなりません。心を入れ替える機会を失うことにもつながるため、EUでは犯罪歴のある人でも例外なく忘れられる権利が適用されます。過去にした過ちそのものが消えるわけではないですが、ネットの情報が原因で嫌な目でみられたり、就職が上手くいかなかったりといった事態を避けられるようになります。
パターン2:風評被害・誹謗中傷を消したい
根も葉もない噂を元にした不利な情報や、あからさまな誹謗中傷を忘れられる権利で削除するパターンです。
特に誹謗中傷は知らぬ間に広がることがあり、名誉を傷つけられて周囲からの印象が悪くなった結果、職を失ってしまったり、精神病を患ってしまったりするケースも考えられます。風評被害・誹謗中傷は情報が広がる前に早めの対策を行いましょう。
パターン3:個人情報漏えいを消したい
写真や名前・住所などの、個人情報の漏えいを忘れられる権利で削除するパターンです。
例えば、友人との写真や動画、プライベートな情報がネット上にさらされてしまうケースがあります。顔写真はもちろんですが、リベンジポルノによる被害もこれに当てはまります。プライベートな情報は所属している学校名や企業名を始め、本名や住所、免許証番号などさまざまな個人情報があります。写真や個人情報はそもそも自分で掲載しなければ拡散しづらいものではありますが、友人が軽い気持ちで載せたことを機に広まってしまう場合もあるので注意しなければなりません。
また、個人情報が広まったのをきっかけにストーカーがでてきてしまったり、嫌がらせを受けてしまったりと、2次被害が起きることもあるため、早めの削除が求められるでしょう。
忘れられる権利の2つの事例とは
Google検索結果削除が認められた事例
Google検索結果で自分の名前を検索すると、犯罪行為を連想させるような検索結果がでてくると、検索結果削除のために裁判が起こされた事例があります。
平成26年に東京地裁が削除命令を下し、日本で初めてGoogle検索結果削除の判決が下されました。憲法で忘れられる権利が認められていない日本でも、権利が適用できた一つの事例です。
Google検索結果削除が認められなかった事例
忘れられる権利が認められなかった、日本の代表的な事例は2つあります。
1つ目は、盗撮事件の逮捕歴がある人が、プライバシーの侵害として検索結果表示の差し止めと慰謝料請求を行いましたが、認められなかった事例です。
2つ目は、2011年に児童買春・児童ポルノ禁止法違反で逮捕された男性が逮捕時の記事の削除を求めましたが、認められなかった事例です。
どちらの事例も、最高裁判所の決定によると「男性の逮捕歴は公共の利害に関する事実であり不法行為は成立しない」というのが理由です。つまりこれらの認められなかった2つの事例は、名誉毀損にはあたらないと判断されてしまいました。海外では忘れられる権利によって犯罪歴のある人でも削除が認められる傾向にありますが、日本国内の場合ではなかなか難しいようです。
忘れられる権利は日本で認められにくい?
犯罪歴・逮捕歴の削除は難しい
明らかな犯罪歴や逮捕歴は、忘れられる権利として削除を認められた事例は、日本国内ではありません。
犯罪歴や逮捕歴は知る権利としての公益性が高いため、どうしても削除が難しいようです。知る権利がある限り、忘れられる権利が全面的に認められる可能性は低いと考えるべきでしょう。
レピュ研では、忘れられる権利で削除するのが難しい場合でも、別の角度から方法をご提案しています。犯罪歴・逮捕歴削除について詳しくまとめた記事もあるため、合わせてお読みください。
忘れられる権利の使い方とは
Googleの削除フォームから依頼
Googleの検索結果削除には、専用の削除依頼フォームを使う方法があります。しかし、この専用削除依頼フォームは日本で使えません。法律が適用される国という選択項目があり、その中に日本がないためです。
日本国内のGoogleサイトに掲載されている情報の削除を求めたところで、対応してもらえないと考えた方がいいでしょう。忘れられる権利はあくまでもEUでプライバシー保護のために作られた権利であり、この削除依頼フォームもEUプライバシー法に基づく削除のみの適用なのです。
忘れられる権利の削除確率と該当サイト
43%が削除できた
EU圏の場合、Googleでは削除依頼のリクエスト処理が開始された2014年5月29日から2018年3月現在、忘れられる権利で削除できたURLはリクエスト総数の43%程度となっています。
100人削除依頼をして、43人が削除に成功できているため、EU圏では広く権利が認められていると言えます。ただ、削除依頼の方法や削除したいコンテンツの内容によって削除できる確率は変わってくるでしょう。また、EU圏の場合なため、日本国内で考えると確率は下がる可能性があります。
SNSに対する削除依頼が多い
海外で、最も多く忘れられる権利が使われているサイトは「Facebook」です。また「Twitter」の情報も削除依頼が多く、主にSNSがプライバシーの侵害や誹謗中傷の起きやすい環境と言えます。Facebookは実名登録なため、個人情報の漏えいに繋がりやすいのかもしれません。またTwitterは匿名性が高い分、気軽に投稿しやすいため、軽い気持ちで誹謗中傷の内容を投稿できてしまうのが特徴です。サイトの特色によって削除したい内容も変わるようです。
忘れられる権利の今後
今後の日本の対応とは
日本では、2018年3月現在、忘れられる権利について活発的な議論が行われています。
忘れられる権利は、東京地方裁判所で認めたり、最高裁で認められなかったりと、権利の要件や効果がはっきりしない点が今後の論点となりそうです。知る権利との両立もあり、明確な権利要件を定めていくことが、今後の方向性といえるでしょう。
忘れられる権利以外で対応も
日本国内で公的に認められていない「忘れられる権利」にこだわり続ける必要はありません。
犯罪歴を消すのはなかなか難しい問題ですが、誹謗中傷やリベンジポルノは、名誉毀損として訴えることができます。また個人情報漏えいによって、ストーカーや嫌がらせが起きたときは、ストーカー規制法によって、警察に通報し対策することもできます。
忘れられる権利以外にもケース別に対処の方法はあるものです。忘れられる権利の主張が難しい場合は、他の方法で対策できないかを考えてみましょう。
忘れられる権利は専門家へ相談してみよう
忘れられる権利は日本国内でのあつかいが、とても曖昧かつ複雑です。「犯罪歴・逮捕歴」「風評被害」「個人情報の漏えい」など、しっかりと対策したい場合は、専門家に一度相談してみるのが近道でしょう。