本レポートはレピュ研を運営する株式会社ジールコミュニケーションズが、独自の調査から「企業の炎上」として判別した事例の分析内容です。先月特に目立っていた炎上事例とその発生要因を解説し、月間を通してどのような傾向、トレンドが見られるのか解説しています。企業におけるWeb・SNS及び、レピュテーショナルリスクの管理・評価・対策等に活用していただくことを目的として毎月発表しております。
目次
2022年11月の炎上件数の推移
ジールコミュニケーションズの独自調査・判定より、2022年11月の炎上件数は22件となりました。炎上タイプの内訳は下グラフの通りです。
過去や昨年の推移と比較しても、10月に引き続き炎上の発生は穏やかな傾向があります。また、メディアに関連する炎上件数が0件なのも特徴的です。反対に、個人による炎上の発生は増加傾向にあり、また、法人による炎上も依然として多く見られるなど、依然として企業としては油断が出来ない状況にあります。
駅に展示されたゲームコラボ広告が炎上
駅内に掲示された、ゲームとのコラボ広告が物議をかもしています。
問題となったのは、とある駅に大きく掲示された広告コンテンツ内容です。人気テレビアニメのソーシャルゲームとコラボレーションした当該広告でしたが、登場キャラクターの肌の露出が多いことから、政治家によって名指しで批判をされてしまいます。それをきっかけに、SNS上では賛否両論のさまざまな声が入り乱れ、一時紛糾状態となります。問題提起から1ヵ月以上経過した現在は炎上の勢いも衰えましたが、作品名と炎上がイコールで結びついてしまうほどインパクトの大きな事例となってしまいました。
「広告意匠審査ガイドライン」とは?
炎上後に駅の運営団体が公表した弁明文において、団体は「広告意匠審査ガイドライン」を設けており、かつ複数人によるチェックを通している、場合によっては弁護士の意見も参考にしている等主張していました。
にもかかわらず今回の炎上は発生してしまったわけですが、いったい「広告意匠審査ガイドライン」とはどのようなものなのでしょうか?
広告意匠審査とは、公共的な場所で広告などを掲示する際のデザインやクリエイティブに関する規定のことを指します。つまり、この広告意匠審査をクリアした広告のみが掲示されて人の目に触れることになります。問題となった駅の広告意匠審査は公開されていませんでしたが、当該のグループ団体が設けているメディアガイドを参考例として見ていきたいと思います。当メディアガイドにおいては、以下の基準を「意匠審査の基準」として設けています。
意匠審査の基準(一例および抜粋)
- 人権侵害の恐れのあるもの
- 法令などにより禁止されているもの、または違反しているもの
- 公の秩序または善良の風俗に反するもの
- 国際的な信義を損なうもの
- 青少年の健全な育成を妨げるもの
- 風致または美観を損なうもの
- 特定の政治活動または思想的意図のあるもの
- 特典の個人または団体等を誹謗し、名誉又は信用を傷つけるもの
- 危険を生じるもの
- 誇大な表現、明らかに虚偽と思われるもの又は誤認を与えるもの
- 各業界が定めている公正競争規約や自主規制などに違反しているもの
- 広告の責任の所在や実態、内容が不明瞭なもの
- 主要な出資者および役職員が反社会的勢力と認められるもの
- 犯罪や暴力、売春、反社会的勢力などを肯定、視差、助長、美化し社会的秩序を乱すもの
- 過度に射幸心、投機心をあおるものや、享楽的な面を強調しているもの
- 性に関する表現が、露骨で猥褻なもの、品位を損なうもの、不快感や周知嫌悪の念を感じさせるもの
- 醜悪、残虐、猟奇的、病気や死などに関する表現が不快感や恐怖心を起こさせるもの
2021年度 JR西日本交通広告メディアガイドより一部抜粋
今回、問題とされているのは、当該広告が『性に関する表現が、露骨で猥褻なもの、品位を損なうもの、不快感や周知嫌悪の念を感じさせるもの』に該当するのではないかという点です。
広告は本当にわいせつだったのか?
では、実際に掲載された広告はわいせつだったのでしょうか?それは「人によって解釈が違う」というのが弊社の見解です。
そもそも「わいせつ」の基準とは一体何なのでしょうか?1951年におこった『サンデー娯楽事件』において最高裁判所は「わいせつ三要件」を示しています。
- 徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、
- 通常人の正常な性的羞恥心を害し
- 善良な性的道義観念に反するものをいう
つまり、「○○%以上肌の露出がある場合」というような客観的な定義は存在せず、「性欲・興奮」など自分にしか分かり得ない尺度や、「正常な性的羞恥心」といった明確な基準のないものを「わいせつ」と定義しているため、それぞれの主観や価値観によって「わいせつ」であるというボーダーも異なっているということが分かります。
そのため、「誰が見ても明らかにわいせつである」ということはなく、見る人の価値観や社会的状況、または環境によって、そのクリエイティブをわいせつに感じるかどうかは異なるのです。その場合、意匠審査の基準として存在する『性に関する表現が、露骨で猥褻なもの、品位を損なうもの、不快感や周知嫌悪の念を感じさせるもの』とは明確な基準ではなく、広告を見た人の価値観に委ねられてしまうため、広告によって不快感を感じた人達の批判や否定的な意見を完全に防ぐような防波堤とはなり得ないのです。
腫物あつかいされるジェンダー問題
今回は公共機関における女性の性的なクリエイティブ=ジェンダーが問題視されましたが、では、その他の広告だったら一体どうなっていたのでしょうか?先に挙げた意匠審査の基準の中には『醜悪、残虐、猟奇的、病気や死などに関する表現が不快感や恐怖心を起こさせるもの』という項目があります。もし、駅に掲示された広告が「ゾンビやミイラなどの腐敗した遺体を生々しく描写したホラーゲームの広告」だったとします。その場合、今回のような論争に発展したのでしょうか?弊社の分析チームは「大きな問題にはならない」と推測しています。「性」と「死」どちらもセンシティブなテーマであるにもかかわらず、なぜ両者には批判されるかされないかの差が生まれるのでしょうか?
そもそも女性は、長い年月において虐げられ、過小評価されてきた歴史的事実があります。近代に入り、急激に女性の社会進出が始まると、社会の風潮は少しずつ変わっていきます。さらにSNSの台頭によって、これまで見過ごされてきた女性たちの訴えが、表面化されてくるようになりました。
近年に入って「女性は自己主張が強くなってきた」という意見が散見されますが、これは観点の違いであって、実際にはSNSによってこれまで表面化してきた女性たちの訴えが、大きな流れとなって押しとどめることが出来なくなったのではないかと見て取れます。ところが、「女性の自己主張が強くなってきた」という意見に代表されるように、私たちの住む社会はその変化を受容できるシステムや価値観がまだ伴っていないという現実があります。そのため、「これまで大丈夫だったものに対して、女性たちが急に批判意見を強めるようになってきた。」と捉えられている傾向にあります。
一方で「死」とは、生きとし生ける物すべてに対して平等に訪れる事象です。近代になってから急に声高に叫ばれるようになったわけでもありませんし、SNSが台頭したからと言って意見が増えたかのように感じることもありません。「性」と「死」では取り扱われ方の歴史が異なるため、同じようにセンシティブなテーマにもかかわらず、「性」や「ジェンダー」はまるで目の上のたん瘤かのように邪険に扱われている現状があるのです。
電車内での迷惑行為を自慢した代表取締役が炎上
Twitterにて、電車内の迷惑行為を自慢した代表取締役が炎上、その後、役員報酬10%カットという事態に陥りました。
問題となったのは、ある上場企業の代表取締役がTwitterにて投稿した自慢ツイートでした。
このような周りの迷惑を省みないような投稿に対して、Twitter上では批判が殺到。当企業は翌日に謝罪文と役員の処罰を発表し、炎上は早期に収束することとなりました。
問題の企業がやるべき「研修」は何?
今回の炎上において、当該企業は以下のような謝罪文を掲載しています。
2022年11月〇日の午後〇:○○、弊社代表取締役社長□□□のソーシャルメディア上での書き込みにおいて、不適切な発言がありました。
当該企業の謝罪文より一部引用
個人の立場として発言したものでしたが、電車での迷惑行為を助長する可能性がある不適切な発言で、弊社取締役として、節度や配慮並びにマナーにもかけており、当人も問題だと認識し深く反省しております。
今回ご迷惑をおかけした乗客の方、お客様及び関係者の皆様、また、企業か、起業家を目指す方、電車をご利用される皆さまに深いな思いをさせてしまいましたこと、心からお詫び申し上げます。
なお、この度の事態を重く受け止め、本人の申し出により下記の通り報酬の一部返上を致します。
今回の件を厳粛に受け止め、今後このようなことを繰り返さないよう、研修の実施などを通じて、再発防止に取り組んでまいります。
日頃よりご愛好賜っておりますお客様、取引先様、関係者の皆様に対し、多大なるご迷惑、ご心配をおかけしておりますこと、重ねてお詫び申し上げます。
本謝罪文から「研修を通じて再発防止に取り組む」という一文が見て取れますが、当企業は一体どのような研修をおこなえば再発防止に繋がっていくのでしょうか?
失言のメカニズムについて理解する研修
はじめに、よく考えれば分かるはずなのに、どうして自身が不適切な投稿=失言をしてしまったのか、そのメカニズムについて理解する必要があります。不適切投稿をおこなってしまった際、自身がどのような状態にあったのか、そしてどのようにしたら同じ状況を回避することが出来るのかに繋がります。
弊社では、失言のメカニズムが「内容」×「状態」×「環境」の3つの要素からなりたっていると考えております。
「内容」は発言者自身の教養や経験に因って語彙力の引き出しが左右されるということです。意味合いは同じでもソフトな印象の単語を使用するか、アクティブな印象の単語を使用するかで、相手に与えるインパクトも変わってきます。
「状態」は発言や投稿をおこなおうとする当人の精神状態を指します。発言者が極度の緊張、または高揚状態にある場合、冷静な判断力が失われるために思ってもみないような発言をしがちになってしまいます。
「環境」は発言者当人のおかれている状況を指します。今回の炎上事例では異なりますが、SNS外でのラフな時間では、精神的にリラックスした状態が仇となり、ついつい余計なことを口走ってしまうことがあります。反対に多くの観客が集まるイベントなどでは言葉数が極端に少なくなってしまって、思わぬ誤解を招きかねません。
「代表者」としてのSNS利用方法について学ぶ研修
2つめに研修すべき内容は、企業や組織の「代表者」としてSNSを利用しているという事実の再確認です。2022年8月の炎上レポートでも解説いたしましたが、SNSによって消費者との距離が近くなった今、消費者はSNSで収集した情報を元に企業を判断していきます。つまり、企業の公式アカウントや代表者が個人名・企業名を公表した上で利用しているSNSアカウントでの発言は、すべて企業としての方針や方向性として捉えられるのです。
それにも関わらず、自身発言する言葉の影響力を加味しない投稿をしてしまうと、徒に企業の経営を乱し、炎上を引き起こしかねません。
代表者としてSNSを利用する際には、企業の利益や経営戦略、そして消費者の持つブランドイメージに寄り添った発言、投稿が求められています。
11月の炎上【傾向と分析】
2022年の中でも11月の炎上事例は、飛びぬけて大きなニュースになったというわけではありませんでしたが、長く、そして確実な爪痕を残しています。特に、1つ目の炎上事例としてご紹介した『駅に展示されたゲームコラボ広告が炎上』した事例は、ジェンダーや表現の自由といった答えのない論争をブーストさせるかの如く加速させ、SNS上でも大きな波紋を呼びました。
先ほども申し上げましたように「ジェンダー」と「公共性」そして「表現の自由」は切っても切り離せない問題です。特に様々な価値観や経験値、人間模様が渦巻くSNSにおいては、いくらガイドラインを策定して研修をおこなっていたとしても、見えない死角を狙ったかのように批判の意見を浴びせられ、場合によっては炎上まで発展してしまうケースもあり得ます。
この場合、企業や組織として大切な事は、
- ガイドラインを策定していると明言すること
- ガイドラインの落としこみ=研修をおこなっていると明言すること
- 性別問わず、さまざまな担当者が発信する情報に目を通していること
- むやみやたらと謝らないこと
以上の4点です。2022年は謝罪文がインフレ化し、批判を受ければ当たり前のように謝罪文が出てくる、そんな1年でした。それにより、企業が謝罪文を出すという行動への価値が薄れ、ユーザーは謝罪文を通して企業の正当性を求めなくなりました。一方で、企業として「やるべきことをやっているのか?」、謝罪文を公表するならば、「どのように企業を是正していくのか?」といった現在・過去・未来を含めたアクション内容にたいして企業の正当性を求めるようになりました。つまり、過去から現在、その後にかけて、しっかりとした対策をおこなっていたのであれば、企業は特段謝罪する必要もへりくだる必要もないということになります。
事例の分析で、炎上リスクのノウハウを蓄積
ジールコミュニケーションズが開催している無料のオンラインセミナーでは、今回ご紹介した炎上事例の他にも、様々な事例をさらに深掘りする形で解説しております。セミナー中の炎上事例解説では、データに基づいた炎上トレンドや、具体的に注意すべき投稿内容についてお伝えしております。
ぜひ、弊社セミナーにご参加の上、今後のSNSリスク対策にお役立ていただければ幸いです。