本レポートはレピュ研を運営する株式会社ジールコミュニケーションズが、独自の調査からデジタルリスクに値すると判断した事例を分析したレポートとなっております。2023年毎月にわたって、特に目立っていたまたは特徴的な炎上事例とその発生要因等を解説し、どのような傾向・トレンドがみられるのかを追っていきます。企業または学校におけるデジタルリスクの管理やトレンドの情報収集に活用していただくことを目的として毎月発表しております。
目次
2023年5月までの炎上発生件数推移
ジールコミュニケーションズの独自調査・判定より、2023年5月の炎上件数は20件となりました。炎上タイプの内訳は下グラフの通りです。
3月・4月と高い推移を保っていた炎上件数ですが、5月に入って一旦落ち着きが見え始めています。ですが、依然として法人の炎上割合は高い数値を維持しており、SNSにおける法人炎上の発生レベルが上がりつつあることが伺えます。
公式SNSの広告が社会的な倫理に反するとして炎上
ある公式SNSの広告が倫理的に不適切だとして炎上しました。
問題視されたのは、とあるアパレルブランドが公式SNSとして投稿した動画でした。当該動画は、そもそもTikTokのインフルエンサーによって投稿されたものでした。動画の内容は、インフルエンサーが特定のアパレルブランドを使って不倫のためのコーディネートを組んでいくという内容で、そもそも倫理的に多少の批判がありました。しかし、そのコンテンツを流用した広告をブランドの公式Instagramアカウントに投稿してしまい、批判が殺到する事態となりました。
認知拡大を優先した結果、顧客体験価値が悪くなってしまった
「不倫」という社会倫理に反する行為を題材にすれば、多少なりとも批判の声があがることは分かっていたはずです。ではなぜ、ブランドは公式SNSで当動画を広告として投稿してしまったのでしょうか?
弊社としては、「ブランド毀損のリスク」と「ユーザーの認知拡大」を天秤にかけた結果、認知拡大が優先されたのではないかと推測しております。そもそもインフルエンサーの起用や選定を行う際には、以下の要素がそれぞれマッチしているかどうかを見ていく必要があります。その要素とは「プラットフォーム」 「インフルエンサーの属性」 「炎上リスク」です。当インフルエンサーは、TikTok上で40万人以上のフォロワーを持つ大人気TikTokerであり、メインターゲットはおよそ10~20代の女性とみられます。このフォロワー層は、炎上したアパレルブランドのターゲット層にマッチしており、同じターゲット層を持つインフルエンサーの動画を介することで認知拡大につなげることを想定したと考えられます。
しかし、当事例ではメインターゲットの年齢層ばかりにフォーカスがあたってしまい、そのほかの「炎上リスク」や「ジャンルやコンセプトのマッチ」といったそのほかの要素がおざなりになってしまったことがポイントとして挙げられます。当ブランドはコンセプトとして『毎日に幸福を』をあげており、今回取り扱った不倫と真逆の性質を持つことが懸念されます。
ここでさらに注目したいのが、今回「不倫」をブランドとして取り扱ったことにより、これまで長い期間をかけて醸成してきたファンの顧客体験価値(CX)が損なわれてしまった可能性があるということです。定期的にブランドを利用している顧客は、そのブランドのスタンスが自分に合っていたから購入していたと考えるのが一般的ですが、そのブランドとしてのスタンス自体が変わってしまえば購入する理由はありません。むしろ、今回の炎上騒動を受けてこれまで獲得した顧客リードが離れてしまった可能性もあります。
インフルエンサーの起用やコンテンツの流用を行う際には、獲得出来るであろうリード数や認知拡大のみならず、炎上リスクやコンセプトなどブランドとのマッチング度合いも参考にすることをお勧めいたします。
他社製品を無許可でPR動画に用いて炎上
女性向け雑誌の公式SNSが投稿したPR動画にて、他社製品を無許可で使用したことから批判が殺到しています。
問題となったのは、とある女性向けのファッション雑誌です。当雑誌の編集部が創刊10周年を記念した動画を公式Instagramに投稿したことが発端でした。動画内では、他社製品のおもちゃ(人形)が燃やされている様子が納められており、投稿したその日のうちにはTwitterに転載されて批判が殺到する事態となりました。その後、当編集部は動画を削除して謝罪文を公表しますが、24時間で消えてしまうストーリーズに掲載したため、二次炎上してしまう結果となりました。
内情が絡んだ作品づくりとPRが直結してしまった
今回の炎上では、「キャリア」「ターゲット」「クリエイティブ」の3つの視点から、当編集部が直面していた問題について迫ります。
キャリア
炎上分析の一環として、まず炎上してしまった雑誌編集部の軌跡を辿ります。
上記の図から分かる通り、当編集部は初代編集長による創刊から休刊、そして企業からの買い取りや復刊、度重なる炎上騒動を経るなど、多くの苦い経歴を経てやっと10周年を迎えたことが分かります。この経歴から、編集部にとって創刊を記念した動画づくりには、並々ならぬ思い入れがあったと推測されます。
クリエイティブ
今回の動画をクリエイティブ的に分析すると、人形=子供および子供時代の象徴、と捉えることが出来ます。それを燃やすという行為は、ストレートに解釈すると「お人形遊びを卒業してステップアップする」 「子供の自分を脱ぎ捨てる」などと解釈することが出来ます。
ターゲット
出版不況と言われて久しい昨今。雑誌が売れない時代でも編集部は生き残るための戦略を練らなければなりません。しかし、これまでのファンは年齢とともにライフステージが変わってしまうため、「ファンだけれど雑誌は買わない」という現象が発生してしまいます。そこで編集部は、新しい購買層を探すべく、ターゲティングとメッセージやコンセプトを変えていく必要があったと推測されます。
まとめ
以上3点の推察より、「ターゲット以外のすべてを敗訴する意味を込めて人形を燃やす」という編集部の内情的思想が強く出すぎた表現を用いてしまったと考えられます。クリエイティブに携わる人間として、アーティスティックな作品を目指したいという欲求は映像から伝わってくるのですが、その欲求にプラスして「生まれ変わる私たちを見てほしい!」という内情が乗ってしまったことで、尖りすぎた表現になってしまったと推測されます。
最適な謝罪文の公表とは?
今回の炎上事例では、安易に謝罪文を公表したことにより二次炎上を招いてしまっています。一体、どのような点に不備があったのでしょうか?
謝罪文の公表は「When」「Who」「Where」で考える
今回の炎上事例では、謝罪文を「24時間で消えてしまうInstagramのストーリーズ」にて公表したことから批判が再殺到する事態となりました。SNSのユーザーは謝罪文を通して企業や組織の誠実さをみています。そのため、一定の時間で消えてしまう謝罪文の公表方法だと、「さっさと謝罪文を公表して、短時間で簡素な謝罪で済ませようとしている」と捉えられてしまう可能性があります。二次炎上を避けるためにも、以下のポイントに注意して謝罪文を公表することをお勧めします。
ジールコミュニケーションの考える最適な謝罪文とは?
では、要点をしっかり押さえた謝罪文とはいったいどのようなものなのでしょうか?下記にジールコミュニケーションズのコンサルタントが作成した謝罪文の例をご紹介いたします。
映像作品についてのお詫び
〇〇年 〇月〇日 〇〇編集部
平素より雑誌〇〇をご愛読いただき、誠にありがとうございます。
〇月〇日に〇〇編集部がInstagramにて公開いたしました映像作品に関しまして、お詫びとご報告を申し上げます。
この度は、当編集部映像作品の不適切な表現によって、映像をご覧になった多くの方々にご不快な思いをさせてしまいましたことを深くお詫び申し上げます。また、映像にて使用いたしましたホビー製品の企業様、並びに当製品のファンのみなさまにも謝罪申し上げます。
今回公開した映像のコンセプトは「△△△」でした。△△△によって、作品をご覧いただいた方々が少しでも元気になれる表現を当初は目指しておりました。しかしながら当編集部の認識不足、特に社会的なリテラシーと「映像をご覧になった方々がどのようなお気持ちになるのか」というイメージに欠けていたことから、このような結果を招いてしまいました。
映像の中で使用させていただいた■■シリーズの■■社様には、お詫びのご挨拶に伺わせていただいており、すでに和解済みとなっております。
当編集部では今回の不適切表現を重く受けてめており、部内検討の結果〇〇編集長、並びに副編集長の●●への降格処分をおこなっております。また、再発防止策として◇◇の施策を検討しております。詳細に関しましては別紙「今後の対応と防止策について」をご参照くださいませ。
この度はこのような結果を招いてしまったことを、重ねてお詫び申し上げます。大変申し訳ございませんでした。今後とも、何卒雑誌○○をよろしくお願い申し上げます。
5月の炎上【傾向と分析】
冒頭でも軽くお伝えしておりますが、5月に入り全体の炎上発生件数は落ち着いているように見受けられますが、実際には法人炎上の割合が高いため、法人、特に企業の公式SNSアカウントを運営しているご担当者さまは以前として油断できない状況にあると言えるでしょう。
このように、法人の炎上割合が増加傾向にある背景には、SNSを使用しているユーザー、特にSNSの主要を成している若年層のリテラシー向上が挙げられます。
トランス・コスモス株式会社による『消費者と企業のコミュニケーション実態調査 2022-2023』の調査によると、25歳以下の若年層はSNSのリテラシーが高く、またマナー違反に対する嫌悪感やそれを是正しようと行動する割合も高いことが示されています。
SNSは確かに利用者数も多く、インプレッション数も多くなる確立が高いPR媒体であると言えますが、SNSの中核を成している若年層こそが「批判者」として立ちはだかる可能性が高いことが分かります。PRや広告としてSNSを活用する際には、SNS上のトレンドや炎上傾向をしっかりと把握して、状況に対して柔軟に適応できる人材や、どのような環境でも効力を発揮するガイドラインやルールの存在が必要不可欠だと言えるでしょう。
事例の分析で、炎上リスクのノウハウを蓄積
ジールコミュニケーションズが開催している無料のウェビナーでは、今回ご紹介した炎上事例の他にも、様々な事例をさらに深掘りする形で解説しております。ウェビナー中の炎上事例解説では、データに基づいた炎上トレンドや、具体的に注意すべき投稿内容についてお伝えしております。
ぜひ、弊社ウェビナーにご参加の上、今後のSNSリスク対策にお役立ていただければ幸いです。