企業炎上分析レポート【2023.04】

本レポートはレピュ研を運営する株式会社ジールコミュニケーションズが、独自の調査からデジタルリスクに値すると判断した事例を分析したレポートとなっております。2023年毎月にわたって、特に目立っていたまたは特徴的な炎上事例とその発生要因等を解説し、どのような傾向・トレンドがみられるのかを追っていきます。企業または学校におけるデジタルリスクの管理やトレンドの情報収集に活用していただくことを目的として毎月発表しております。

2023年4月までの炎上発生件数推移

ジールコミュニケーションズの独自調査・判定より、2023年4月の炎上件数は32件となりました。炎上タイプの内訳は下グラフの通りです。

2023年4月の炎上数は、先月から引き続き高い数値を保っています。1ヶ月における特徴的な変化としては「政治」「メディア」を発端とする炎上の割合が減少し、「エンタメ」経由での炎上が増加傾向にあることが挙げられます。3月は政治的なイベントがあったため「政治」や、政治的情報発信をする「メディア」に注目が集まりました。4月は入社式や始業式など何かと「始まり」を意識するイベントの多い季節ではありますが時事に由来する炎上は少ない印象があります。どちらかというと、政治に対する興味関心が落ち着きを取り戻したことで、もともと勢いのあったエンタメ関連の炎上が復活してきたと見て取れるでしょう。

モラルに欠けるポスターを打ち出した企業が炎上

あるイベントのポスターが、リスペクトやモラルに欠けるとして炎上しました。

問題視されたのは、あるイベント運営会社がTwitterに投稿した大型和装イベントのPRポスターでした。画像生成AIを使用して制作されたと思われるそのポスターは、4月の中頃Twitterに投稿されると約2日間で圧倒的な批判を受ける事態となりました。

SNS上では「AIを使用している」というだけでも一定のユーザー批判を受けてしまう嫌いがありますが、その他にも当ポスターには「和装の伝統的なルールに反した描写がされている」「日本人らしくない」という批判の声が多々見受けられました。投稿から3日目には大手ニュースサイトに記事が作成されるとバッシングは最高潮となります。しかし投稿したイベント運営会社は「ファッションは自由」としてSNSの批判を突っぱねる発言をし、二次炎上へと発展していきました。

「AIのせいだから」は通用しない

今回使用された画像素材は「画像生成AI」にて制作されており、なおかつネットサービスで購入することの出来る、言わば既製品であったことが明らかになっています。では、既製品のAI画像を使用して批判された場合、ただ情報を発信した企業に落ち度は全くないと言えるのでしょうか?弊社の見解としては「否」です。なぜなら、自社のアカウントで情報発信する以上、最終的な発言の責任と損害は全て情報の発信主に降りかかってくるからです。

公式としてSNSアカウントで発信した情報は企業の言葉として捉えられるという解説は、弊社のオンラインセミナーや過去の炎上レポートなどでもお伝えしてきた通りです。加えて、現在の情報発信におけるスタンスとしては、クリエイティブチェックは複数人でおこなうことがスタンダードとなってきています。例えば新聞広告一つをとっても、以下のようなフローを踏むことが一般的であり、それはSNSも例外ではありません。

SNSで画像生成AIを用いたクリエイティブを発信する場合「AIが作った画像だから、企業やSNS担当者には責任がありません」と言い訳をしてしまうと、それは言外に「不特定多数のユーザーが閲覧するプラットフォームで情報発信するにも関わらず、クリエイティブチェックをしませんでした」「弊社は無責任な組織です」と吹聴しているのも同じこととなってしまいます。今回のAI画像に関してもイベント企業が主張する「ファッションの自由」はあるのかもしれませんが、だとしてもプロとして着物の袷は間違えてはいけないラインだったのではないでしょうか?

確かに画像生成AIは素晴らしいツールです。常に学習し、リソースを補い、高品質なクリエイティブをユーザーに提供してくれます。しかし、画像生成AIは学習の大元となるクリエイティブを安易に流用してしまう等、まだまだ不安定な側面が多くみられます。そのため、クリエイターや専門家によるチェック体制がまだまだ必要不可欠な領域です。それでいてクリエイティブチェックを怠るという行為は「手抜き」であって「リソースの削減」ではありません。本当の意味でAIに頼ることの出来る日が来るのは、まだまだ遠いのかもしれません。

なぜ炎上は発生したのか?~集客=Twitterとは限らない~

今回の事例における炎上の背景について、告知されたイベントのミッションやSNS担当者の人物像などを読み解きながら推察してまいります。

告知されたイベント

まず、今回のイベントにおける集客ターゲットから紐解いてまいります。ターゲットとなるのは、オフラインのイベント誘致なので当然ながら「イベントに足を運んでくれる人」となります。そして、炎上後にイベント会社が「ファッションは自由だ」(=だから批判されてもポスターは取り下げません。)と主張したように、ある程度、主催者側の活動に対して寛容なファンを中心に集客を進めていたと考えることが出来ます。

それに対する集客方法に関しては、これまで当イベント会社が打ち出してきたイベントポスターから「インパクトのあるクリエイティブ」を多用する傾向があると推察されます。パッと目に入ったときの印象や見栄えに重きを置いているのでしょう。

SNS担当者の人物像

次に、炎上を発生させてしまったSNS担当者(主催者)にスポットを当てて推察を進めてまいります。炎上の経緯から以下のような特徴が浮かび上がります。

  1. 頑なに謝罪・釈明をしない頑固な一面がある
  2. 「ファッションの自由」を免罪符にミスを認めないプライドが高い側面がある
  3. 企業ページの掲載文章がダミーのままなど、ITリテラシーもさほど高くはない

上記の様子から、当SNS担当者は「状況やトレンドに合わせて柔軟に考え・対応することが苦手」な人物なのではないかと考察されます。

集客=Twitterとは限らない

ここでフォーカスを当てたいのは、そもそも当イベントの告知や集客としてTwitterというSNSプラットフォームは本当に適切だったのか?という問題です。今一度Twitterの特性についてポイントをおさらいしていきましょう。

  • Twitterはトレンドの移り変わりや流動性が大変高いSNSプラットフォームである
  • 特にイーロン・マスク氏による買収を契機として、トレンドのみならず機能や仕様も日々変動している
  • Twitterはもっとも炎上が発生しやすいSNSプラットフォームの1つ
  • 140文字以内に納めた文章での情報発信が主流で、画像投稿はメイン機能ではない

これらのような特性と当イベント会社の集客スタンスを照らし合わせたとき、TwitterというSNSプラットフォームは、イベント会社の求める集客要件を満たしていないことが分かります。つまり、「今回のイベントはそもそもTwitterで集客するべきではなかったのではないか」という結論に至るのです。

確かにTwitterは日本国内の月間アクティブユーザー数が約7,000万人(2022年10月現在)の超大型プラットフォームです。単純に集客することの出来る母数を求める場合、Twitterという選択肢を選ぶことにそこまで理由はなかったのかもしれません。しかし、約7,000万人のユーザー全てにイベントの誘致がかけられるわけではもちろんありません。集客でSNSを活用する際には、SNSの特性を理解し、そして自社の集客スタンスと結び付けて利用することで、初めて認知を得ることが出来るのです。

今回炎上した企業も、集客 = Twitterのような印象をもっていたがためにTwitterを活用し、このような事態を招いてしまった可能性があります。SNS活用とは、集客のミッション・スタンスとSNSの特性がマッチしてこそ効果のある施策だということを忘れてはならないのです。

飲食店オーナーのリプライに批判が殺到して炎上

とある飲食チェーン店のオーナーが問題発言をしたことで炎上する事態となりました。

きっかけとなったのは関東県内にある飲食店のオーナーが運営するTwitterアカウントです。母体となるチェーンは海外にも店舗展開をおこなっている比較的規模の大きな組織であり、20以上の地域にそれぞれ屋号を構えています。

このように、客が投稿したレビューに対して嫌味のようなリプライを残します。それでもオーナーの怒りは収まらないのか、ユーザーからの励まし投稿に対して次のようなリプライをおこないました。

酷評されたとはいえ客を「クソ素人」と呼び捨てるオーナーの態度に注目が集まり、あっという間に炎上状態にまで発展することとなりました。オーナーは謝罪文を公表するも、事態を重く見た母体のチェーン店側から屋号を外される結果となってしまいました。

公式アカウントとしての権利と守るべきルールとは?

個人として利用しているSNSアカウントならいざ知らず、「公式として企業や店舗が運用しているアカウントが発信する情報は、企業としての姿勢を表している」というSNS炎上の傾向については、これまでの炎上レポートでも再三にわたってお伝えしてまいりました。では、公式SNSを運用している限り表現が制限されて「表現の自由」がなくなってしまうのでしょうか?

そもそも表現の自由とは個人・法人を問わず全ての見解を検閲されたり規制されたりすることもなく表明する権利のことを指します。この権利は一般的に「公共の福祉」に反しない限り保証されるものですが、では客に対してクソ素人と罵倒することは公共の福祉に反することかというと、そうとは言い難いのが実情です。公共の福祉は「平等権」「自由権」「社会権」が思想の根底としてありますが、クソ素人と罵倒されたことで受けとった当人がどのような損害を被ったか分からない以上、公共の福祉に反するとは判断できないのが現状です。

まんがいち公共の福祉に反するとされた場合は、法律の下オーナーとチェーン側に完全な非があると見なされたかも分かりません。しかし、多くのSNS炎上は「法律や準拠する思想に反するから批判が集中した」という限りではありません。SNSの炎上とはルールを基準に発生するものとは別に、ルールで補うことの出来ない領域で、賛否両論が巻き起こって発生するケースも多く存在するからです。

今回のケースでは「企業が公式SNSアカウントで客を罵倒することはルール違反なのか」という問題にあたりますが、これは明確な基準が定まっていない曖昧な事柄ではあります。しかし、これまで我々が人として築き上げてきた文化や習慣、そして何より道徳的な観点から「腹立たしいという理由で人が束になって(組織的に)人を罵倒することは”是”なのか?」という問いには、”否”であると答えることが出来ます。

こういった場合に気を付けていきたいのが、自社で運用しているSNSのポリシーやガイドラインは道徳のような情緒的なポイントを押さえているかという点です。ルールや社会的な基準とは善悪のフィルターを通して物事を見た結果を明文化したものですので、従ってそれに法って策定されたガイドラインさえ守ることが出来れば社会的に大きく外れた道を踏むことはないでしょう。しかし、習慣や道徳というものは人々が生活の中で築き上げていくものなので、流動的かつ明文化しにくいという欠点があります。

もしも「自社のポリシーやガイドラインは情緒的なポイントを押さえていない」という場合は、当ケースのように情緒的な観点から炎上した事例を分析し、自社のガイドラインであれば炎上を回避出来たかどうかをシミュレーションしてみることをお勧めします。なお、先述したように流動的で曖昧なラインを模索していく作業なので、出来るだけ多くの事例を定期的に分析・シミュレーションしていく必要があります。ほとんどのSNS炎上が情緒や道徳による批判となった今、組織としてガイドラインの見直しが迫られていると言えるでしょう。

4月の炎上【傾向と分析】

冒頭でもお伝えしたように、SNSの炎上発生件数は非常に高い数値を保ちつつ推移している状況です。SNS全体として、批判やネガティブコメントを誘発しやすい風潮が高まっていると考えられます。「やらない後悔より やる後悔」とはよく耳にする格言ですが、法人としてSNSで情報発信する場合は「少しでも違和感を感じたら、やらないが吉」が鉄則です。

ここで重要なのは、この「少しでも」とは「軽く」と同時に「誰か一人でも」という意味も含んでいるという点です。「モラルに欠けるポスターを打ち出した企業が炎上」の事例でも解説したように、複数人で情報の精査をすることは昨今においてスタンダードなSNSリスク体制です。発信したい情報を精査した際に担当者の誰かが違和感を感じれば、それすなわち違和感を感じるSNSユーザーが他にも存在するかもしれないということとなります。

「私は常識的なはずだから平気」「一人だけれど時間をかけて何度も遂行しているから大丈夫」と考えるのは禁物です。なぜなら、人間は誰しもが無意識の先入観(アンコンシャス・バイアス)をもっており、それによって自身の意思決定が大きく左右されてしまう恐れがあるからです。そのため、生まれや育ち、年齢や性別など異なる性質を持つ複数人を選抜し、多角的な視点をもって情報を精査する作業がどうしても必要となるのです。このように事前に情報を精査し、フィードバックとブラッシュアップをかさねていくという体制のもと、SNSでの情報発信をおこなうことをお勧めいたします。

事例の分析で、炎上リスクのノウハウを蓄積

ジールコミュニケーションズが開催している無料のウェビナーでは、今回ご紹介した炎上事例の他にも、様々な事例をさらに深掘りする形で解説しております。ウェビナー中の炎上事例解説では、データに基づいた炎上トレンドや、具体的に注意すべき投稿内容についてお伝えしております。

ぜひ、弊社ウェビナーにご参加の上、今後のSNSリスク対策にお役立ていただければ幸いです。

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