「ストーカー」という言葉は世間に浸透しており、ニュースや日常会話でも何気なく登場します。しかし、ストーカー行為の本質を理解している人はそれほど多くありません。ストーカーは身近な人物とは限らず、見ず知らずの相手から思わぬきっかけで執着されていることもあります。また、ツイッターなどのSNSが原因でネットストーカーにつきまとわれてしまう可能性もあるのです。この記事では、SNSを中心にインターネット上でのストーカー対策を解説していきます。
目次
ネットストーカーに見られるタイプ
ストーカーにはさまざまなタイプがあります。そして、主にインターネットでストーカー行為をしてくる人物を「ネットストーカー」と呼びます。ネットストーカーは直接的な接触がないだけに、脅威を見くびっている人も少なくありません。しかし、ともすればリアル世界でのストーカー以上の危害をもたらすケースもあるため、厳重な注意が必要です。
ネットストーカーに分類される行動として、「なりすまし行為」が挙げられます。なりすましでは、ストーカーが本人だと偽り勝手にSNSを投稿するなどの行動をしかけてきます。ときには間違った情報が本人発信として広まってしまうため、社会的信用を下げかねません。また、SNS上で根拠のない「誹謗中傷」を投稿し続けるのも立派なネットストーカーの特徴です。
そして、一方的なコミュニケーション欲求をぶつけてくるパターンもあります。ツイッターでいくら無視してもリプライやDMが途切れないなら、ストーカー化しているといえるでしょう。また、「会いたいです」などと面会を求めてくるのもネットストーカーにありがちな行動です。本人は「放っておけば収まるだろう」と思っていてもネットストーカーはエスカレートしますし、ときには犯罪にまで発展する危険もあります。ただし、単なる熱心な閲覧者とネットストーカーを間違えているケースもありえるため、ストーカーと認定するまでのプロセスには慎重になりましょう。
ブログの場合でいえば、ネットストーカーは日記の中に掲載された画像に注目する傾向があります。服装や制服から検索をかけ、相手の情報を割り出そうとするのです。また、画像の背景なども住所を特定するうえでの大きなヒントになります。住所を突き止めた後で、ネットストーカーは実際に訪れたり、連絡を取ろうとしたりします。あるいは、同じ場所で撮影した画像を自分のブログ、SNSに掲載するケースも珍しくありません。こうした行為は肉体的な暴力ではないものの、精神的な恐怖が大きく本人を苦しめます。
ネットストーカーになるのはどんな人?
「恋愛感情」はネットストーカーの原動力になることが多いポイントです。しかも、個人情報が検索されてしまうインターネットにおいて、どこで恋愛感情を抱かれるかまで正確に予測はつきません。たとえば、SNSに投稿した画像が誰かの目にとまり、好きになられた可能性はあります。また、SNSや掲示板、ブログなどでわずかにでも接点があると「知り合い」とみなされてしまい、やはり恋愛対象にされてしまった確率もゼロではありません。もちろん、ネット上の画像で「かわいい」「付き合いたい」と思うのは自然な反応です。ただし、そこから相手に執着するようになってしまうとネットストーカーに変わってしまいます。つまり、ネットストーカーになりやすいのは思い込みが激しく、共感能力の低い人だといえます。
なお、リアルでの知人に好意を持たれ、ネットストーカーと化してしまった例もあります。そして、好意だけがストーカーの動機と限りません。恨みや復讐心で動いているネットストーカーもいます。こうしたタイプとリアルで接点があれば、特定は比較的容易です。しかし、本人のSNS、ブログなどの振る舞いが敵意を呼び、まったく知らない人にストーキングされている場合は特定が困難でしょう。こうした事例からも、ネットストーカーになる可能性が高い人として「執着心が強い人」「独自の正義感で凝り固まっている人」が挙げられます。
悪質なコメントから実名さらしまで被害はさまざま
ネットストーカーによる攻撃の種類はさまざまです。もっとも多い攻撃のひとつが誹謗中傷です。たとえば、本人がツイッターで何を書き込んでも批判的なリプライを寄越してくる場合などがあてはまります。また、本人の実名をさらしながら、汚い悪口をネット上で書き込むのも悪質なストーカー行為の一種です。そのほか、ブログやインスタグラムのコメント欄など、ネット上にはコンタクトを図れる場所が多いため、ネットストーカーの攻撃はエスカレートしがちです。
こうした誹謗中傷がさらに発展すれば、本人のプライバシーすら脅威にさらされていきます。住所や本名、勤務先から出身校まで調べ上げられ、ネット上で公開されてしまうのです。そのうえ、「この人は過去に法律を破っています」などの嘘を書かれたら、身に覚えのない批判を受けてしまうでしょう。
しかも、ネットストーカーは現実世界のストーキング行為まで犯しているケースも少なくありません。ストーキング相手の弱みを握るため、生活圏にまで侵入してくることがありえるのです。本人が気づかないうちに盗撮や盗聴が行われ、インターネットで公開されてしまいます。ネットに流出した情報は削除依頼が通る前に拡散されていくので、ともすればプライバシーが永遠に傷つけられ続けるのです。周囲の目が気になり、職場や住所を変えるしかなくなった被害者もいます。
実名や顔写真まで特定される流れ
ネットストーカーによって個人情報が突き止められてしまい、被害が大きくなってしまうケースは後を絶ちません。実名や顔写真が特定される原因として多いのは「SNSやブログの画像」でしょう。ネットストーカーはわずかな手がかりからでも個人情報を推理しようと、必死で画像を分析しています。何気ない画像でも拡大をするなどして、隅々まで調べ上げているのです。たとえば、ネットストーカーは室内の画像を発見すると、一緒に映っている新聞紙、テレビ番組などで地域を特定します。窓の外の景色も大きなヒントになりますし、よく行くお店から生活圏内を察知します。
より手軽な方法として、ネットストーカーは掲示板をはじめとする不特定多数が集まるサイトを利用しがちです。こうしたサイトでは情報網が全国に広がるため、より特定までの道のりが早まります。「恩人を探している」といった嘘をつけば、親切心から情報を提供してくれるネットユーザーも現れるでしょう。万が一、ターゲットの知人や友人とコンタクトが取れれば画像や個人情報は簡単に得られます。そのほか、ターゲット本人のFacebookやインスタグラムなども貴重な情報源です。こうしたサイトのプロフィール欄には細かな経歴が書かれているため、特定まで時間はかかりません。ものの数十分ほどで、甚大な危害を与えられるだけの情報がネットストーカーの手にわたってしまうのです。
実際にあったネットが絡んだ事件
以下、実際に起きたネットストーカー事件の例です。2018年2月、長崎県で当時38歳の男性が、30代女性をネット上で誹謗中傷し続ける事件が起こっています。犯人は県職員の男性で、第三者の通報が逮捕のきっかけになりました。誹謗中傷は10回以上にもおよび、女性のプライバシーを著しく傷つける内容でした。
また、2016年には音楽活動を行なっていた女性が、ファンを自称していた男によって殺されかける事件が起こっています。動機は男側の逆恨みであり、最初はネット上の悪質な書き込みによるストーカー行為が繰り返されていました。男性のストーカー行為が過激化したきっかけは、プレゼントを返送されたことだと取調によって判明しています。やがてストーカー行為を重ねるうちに男性の感情はエスカレートし、実際の傷害事件にいたりました。
この2件が証明する教訓はまず、「職業の安定性」や「社会的地位」があるからといって、「ネットストーカーになりにくい」とはいえないという点です。ネットストーカーはステータスよりもむしろ、本人の人格に大きく関係しています。そして、ネットストーカーが直接的な暴力に訴えてくる可能性も十分にありえるという点です。当初はとるにたらない程度の誹謗中傷でも、対応を誤るとネットストーカーの執着心をあおってしまう危険があります。
ネットストーカーを撃退する方法
SNSなどでネットストーカーの被害に遭ったとき、重要なのは第三者に協力を求めることです。ストーカーとは他者への執着で心が埋め尽くされている状態です。つまり、被害者本人がストーカーの相手をするほど、ますます感情を高ぶらせてしまいます。また、被害者が感情的に対応し、ストーカーを刺激する可能性もゼロではありません。そこで、被害者が直接ストーカーとコンタクトをとらなくていいよう、間に人を置くように工夫しましょう。カウンセラーなどのプロフェッショナルはストーカーとのコミュニケーションを熟知しています。ストーカーが興奮しても臆さないで立ち向かってくれる心強い味方です。
個人情報をつかまれているなど、ネットストーキングが過激化している際には早急に警察へと連絡する必要があります。とはいえ、警察といえども必ずストーカーを即座に逮捕できるわけではありません。それでも警察は相談に乗ってくれますし、加害者に注意を与えるなどの対応はしてくれます。また、万が一、ストーカーがより悪質な行為をするようになった際、迅速に警察が動いてくれるようになります。ちなみに、警察に相談するときにはストーキングされている事実を証明することが大切です。証拠品としてネット上のやりとりは、データやスクリーンキャプチャで保存しておきましょう。
ストーカー規制法はネットも範囲内
つきまといやストーカー行為を取り締まる法律として「ストーカー規正法」が制定されています。そして、ストーカー規正法の内容はさまざまな局面で議論を招いてきました。過去、ストーカー規正法に抵触していないという理由から警察が事件に介入できず、被害を拡大させてしまった例があったからです。しかし、さまざまな事例が教訓となってストーカー規正法は改正され、適用範囲が広がりました。現行のストーカー規正法ではSNSなどのネットストーカーも取り締まりが可能です。たとえば、SNSでリプライを送ったり、ブログでコメントを書き込んだりするのも「つきまとい行為」とみなされるようになりました。
そのほか、ネットストーカーに協力する行為も違法に含まれます。ネットストーカーが掲示板などで情報提供を募っている際、明らかに違法であると認識しているのに協力したなら、その人間も罰されます。そして、ストーカー行為に課せられる罰則も見直されました。現行のストーカー規正法では、改正前よりも厳しい罰則を設定しています。ストーカー規正法の改正には、ネット犯罪の抑止力となる効果が世間から期待されています。ネットストーカーに遭遇したら、悪質性を強める前に記録を保存し警察へと相談しましょう。
ストーカーに遭わないための注意点
特定の人物に目をつけられ、ネットストーカーの被害に遭わないためには本人の心がけも重要です。たとえば、SNSやブログではなるべく個人情報を公開しないようにしましょう。画像についても、アップする前に吟味することが大切です。住所を知る足がかりになるような要素が写りこんでいた場合、投稿を見送るのが無難でしょう。SNSで日記を書く際にも、生活圏が予測できるような描写は排除します。
また、人間関係や学校、勤務先などは可能な限りSNSには載せないようにします。もしも、個人情報を載せるのであれば、アカウントに鍵をかけるなどしてプライバシーを保護しましょう。また、恨みを買わないように注意しながらネットを利用することも大切です。SNSは簡単に意見を発信できるだけに、雑な表現をしてしまいがちです。また、本人が不安定な精神状態だと投稿も攻撃的になる可能性があります。こうした投稿がたまたま誰かを怒らせ、ネットストーカーを生み出してしまうことも少なくありません。SNSでは誰かを傷つけるような投稿を控えましょう。そして、投稿する前に文章をよく推敲します。特に、気持ちが高ぶっているときに書いた文章は、少し間を空けてから見直してみると問題点がわかりやすくなります。ネットストーカーはどこに潜んでいるか予測できないため、用心に用心を重ねておくのが肝心です。
対処法としてセミナーを受けておこう
ネットストーカーを呼び寄せてしまう原因のひとつに、本人の「知識不足」があります。もちろん、理不尽なきっかけでストーカーに変わる人物もいます。しかし、本人が正しい用心を怠っていなければ、予防できた被害があるのも事実です。ネットでは相手の正体がすぐにはわかりません。そのため、親しくしているネットユーザーの裏の顔に気づけないときも出てきます。相手が豹変してから慌てて対応しようとしても、手遅れになっている危険は高いのです。そこで、深刻な被害を受ける前に専門の風評被害・誹謗中傷対策サービス業者などが開催するセミナーをチェックしてみましょう。対処法を踏まえてネットを利用すれば、うかつな行動でネットストーカーに目をつけられる確率が減ります。
※参考 ストーカー「普通の人」がなぜ豹変するのか(中央公論社/2017/小早川明子)
【警察庁】第4章 支援等のための体制整備への取組