レピュ研を運営する株式会社ジールコミュニケーションズが、独自の調査により「ネット炎上」として判別したデータをもとに作成したレポートです。先月特に目立っていた炎上事例とその発生要因を解説し、月間を通してどのような傾向、トレンドが見られるのか分析しています。
企業におけるWeb・SNS、及びレピュテーショナルリスクの管理、評価、対策等に活用していただくことを目的として毎月発表している調査レポートです。
目次
地域活性化プロジェクトが女性蔑視だとして炎上
地域活性化として発足したプロジェクト内容が女性蔑視だとして炎上しました。当該プロジェクトは2016年に発足。各観光地を二次元の萌えキャラに擬人化することでユーザーに観光地の魅力を伝える活動を行っていました。また、運営会社は内閣府からクールジャパン企業20社に選ばれるなど、着実な集客へと繋げていました。
ところが今年の11月に、Twitter上で影響力を持った女性社会活動家がTwitter上で当該プロジェクト内容を批判したことから状況は一変します。擬人化されたキャラクターの設定にある「肉感的」「夜這い」というキーワードに対して、女性の性的搾取を行っているとして大々的に批判コメントを投稿しました。この批判コメントは女性社会活動家、いわゆる「フェミニスト」達の間で瞬く間に拡散され、Twitter上では当該プロジェクトへの批判がトレンド入りする事態へと発展しました。
この事態をうけた運営会社は、炎上の翌日にキャラクターの一部設定を修正する対応をおこないました。さらにHPのプロジェクトの協賛企業一覧ページを削除し、炎上被害の拡散防止措置をとりました。しかし、告知や釈明をおこなわずにサイレント修正をおこなったことで、さらに批判をうける事態となり、結果的に炎上は長期化することとなりました。
SNS上のユーザーは擁護派と否定派に分かれる
女性社会活動家の告発に対して、SNS上では運営企業の擁護派と批判派に意見が分かれることとなりました。運営企業を擁護する意見としては
- すでに展開しているキャンペーンなのだから偽計業務妨害罪に問われかねないのでは?
- なぜ2016年に発足したプロジェクトに文句を言うのか?
というように、以前から営利展開をおこなっていたプロジェクトをなぜこのタイミングで批判したのかという意見が多く集まりました。一方で批判派の意見としては
- 冗談でも「肉付き」や「夜這い」というキーワードは禁止用語では?
- 女性蔑視に繋がるような絵は公共の場に出すべきではない
というような意見が集まり、SNS上ではこの2派の意見がぶつかり合うことで大規模な炎上へと発展しました。
活発化する女性活躍推進運動と加速化するフェミニスト嫌い
今回の事例や9月に発生した『行政団体とVtuberのコラボ動画が削除され炎上した事例』など、女性活躍推進の社会活動家が発端になって炎上する事例が頻発しています。そういった社会活動家は主にTwitter上での情報発信を積極的におこなっており、「ツイフェミ」ともよばれています。女性活躍推進運動が活発化した背景として、SDGs政策など社会的な追い風があったことが影響しています。
一方で、女性活躍推進の活動家、いわゆるフェミニストを嫌う層も増えています。電通マクロミルインサイトが調査したデータによると、若年男性(18~30歳)の約42.8%が「フェミニストが嫌いだ」と回答しており、SNSの利用割合の最も多い年齢層にフェミニスト嫌いが広がっていることが分かります。
電通総研コンパスvol.7『The Man Box:男らしさに関する意識調査』より引用
ユーザー意見の相違によるSNS炎上が増えている
今回の事例にみられるように、SNS上に発信した情報自体に問題があるのではなく、情報に対して様々な意見が集まり・ぶつかり合うことで炎上に発展するというケースが頻発しています。特に、ジェンダー問題や人権問題に関してはユーザーごとに多様な価値観や意見があるため、炎上に発展しやすい傾向にあります。
それに対して、企業が「ジェンダー問題や人権に触れない情報を発信しよう」という対策方法をおこなうことも、また批判の対象となります。公式SNSアカウントでの情報発信は企業イメージに直結するため、社会的問題を意図的に避ける等の対応も禁物です。SNS上のユーザーは企業として社会的問題にどのように対応していくのか、という面で企業イメージを描く傾向にあるので、社会的問題への言及を避けることは企業として社会的問題に向き合っていないと捉われる可能性があります。SNSを利用する多種多様なユーザーに配慮をしつつ、企業として社会的問題と向き合う姿勢をみせることが、公式アカウントの運営では重要となります。
地方自治体発行の女性応援ハンドブックがSNSで炎上
ある地方自治体が発行した女性応援ハンドブックが、時代錯誤的内容だとしてSNS上で物議を醸しています。働く主婦、いわゆる「ワーキングママ」に対して作成された当該ハンドブックですが、表紙に記載されていた『仕事も暮らしも、欲張りなライフスタイル実健』という言葉が、まるで女性の仕事と家庭の両立が欲張りであるかのような表現であるとして問題視されました。さらに、当該ハンドブックの『ワーキングママの心構え』というページでは、女性のみが周りの環境に配慮して働かなければならないかのような描写がされており、さらに批判が加速することとなりました。
ハンドブック発行元の自治体および団体長は釈明をおこない、関連HPや電子版ハンドブックの記載内容修正といった対応をおこなう事態となりました。
性別に対する無意識の先入観がもたらす炎上
当該ハンドブックは、自治体の働く女性応援課が作成・発行したものでした。本来であれば女性に寄り添うべき働く女性応援課が、なぜこのように女性の活躍を阻害するかのような表現をおこなってしまったのでしょうか?
人はそれぞれ自身の過去や経験に基づいて価値観や思想を構築しますが、個人が築いた価値観は無意識のうちに言動や行動にあらわれます。このように、自分自身では気づけない物の見方や捉え方の歪みや偏りのことを『アンコンシャス・バイアス』と呼びます。例えば「親が単身赴任中というと、父親を想像する(母親を想像しない)」「お茶くみは女性の仕事」というように、無意識のうちに仕事の役割を性別で分けてイメージしてしまうことなどが挙げられます。
今回の炎上事例では、ハンドブックの製作者が女性に対して抱いている無意識の先入観が、ハンドブックという形で具体化してしまったことに原因があると推察されます。女性が働くということに対して、これまで無意識感じていたに「風当たりが強い」または「自身の周りの女性はこのようにして両立している」という経験の蓄積が、差別的な表現に繋がってしまったのではないでしょうか。元来、日本社会では「男は仕事に出て女は家庭を守るもの」という社会的な考えが根付いていました。このように、家庭環境や勤務環境においてそのようなレガシーが受け継がれた結果、無意識のうちに女性の働き方像にそのイメージが反映されてしまった、という炎上ケースはどのような企業においても起こりうることが想定されます。
アンコンシャス・バイアスによる炎上避けるために
アンコンシャス・バイアスは配慮するほどのことではないと見過ごされる場合が多くありますが、多様な意見や思想が個性として受け止められる昨今において、無意識の先入観は大規模な差別にも繋がりかねないので注意が必要です。そのため、SNSでの情報発信など多種多様な意見や価値観を持ったユーザーに情報を届ける際には、どのような意見のユーザーも平等に情報を受け止めることが出来るかどうか留意することが重要となります。
また、自身では物事を平等にとらえていると考えがちですが、そのような人にもアンコンシャス・バイアスは存在します。無意識の先入観や価値観がコンテンツ・情報発信に反映されてしまうので、自身での気づきや配慮も難しいものになります。アンコンシャス・バイアスによる差別的な情報発信を避けるためには、情報リテラシー研修等で自身の持つ無意識の偏見を認識し直す必要があります。さまざまな項目や分野において、自身の思想やイメージに偏りがないかを改めて認識し直すことで初めて、無意識の偏見を正し、多方面に対して平等な情報発信が可能となります。
本物かのように加工写真を投稿したことで炎上
企業の公式アカウントにて投稿された写真が加工だとして炎上しました。
ある企業公式Twitterアカウントにて観光地の写真が投稿され、約15万近くの「いいね」がつくなど話題となりました。しかし、SNS上のユーザーから写真の色味が鮮やかすぎるのではないかと指摘を受けたことにより、当該公式アカウントは、加工を認め謝罪を公表することとなりました。当該企業は地図や航空写真の提供を主なサービスとしており、一連の騒動に対してSNS上では
- 地図を売っている企業が公式アカウントで加工した写真を本物かのように投稿してはいけないのでは?
- 写真を見て、旅行に行こうかと思っていました。加工してたと分かっていたらそこまで思わなかったかも。がっかりです。
など、企業としての誠実性や提供するサービスの品質についても問われる事態へと発展しました。
「誤解を招く」という謝罪文の問題点
今回の炎上において、当該企業は「誤解を招く」「皆様に不快な思いをさせた」として謝罪をおこない投稿を削除しました。ところが、この謝罪文に対しても批判意見が集まることとなりました。
「誤解を招く」という表現は謝罪文において頻繁に見受けられる言い回しですが、誤解とは「情報の受け取り手が誤った解釈をおこなった」というように捉えられかねないことに留意しなければなりません。また、本来謝罪を行わなければならない点は「皆様に不快な思いをさせた」ことではなく「まるで本物だと偽った情報発信をおこなった」ことです。このように、謝罪文で論点をすり替えて責任転嫁することを『謝罪風の謝罪』と呼びます。
今回の謝罪文においても、文章の捉え方によっては「加工写真だと見破れなかったユーザーが悪い」という意味で解釈されかねません。
高い好感度がもたらした早期炎上収束
当該炎上は、規模が大きかったものの、以下のようなユーザー意見が多く見受けられました。
「SNSの画像はある程度整えてある前提なので、綺麗な写真のシェアをありがとうございました!って思いました。 」
「 私、すっかり騙されました。私は、別に気にしていませんよー」
このような好意的なユーザー意見が多く寄せられた結果、炎上は早期に収束を迎えることとなりました。これは、当該企業が創業から培ってきた堅実なイメージと、SNS運用で獲得したファン層の質が良かったことが炎上動向に影響を与えた、という珍しい例になります。
SNS上で炎上を引き起こした場合、悪評や批判コメントの悪影響に引きずられて、企業イメージまでダウンしてしまうことが一般的な炎上スタイルです。しかし今回の炎上に関しては、企業の好感度がそもそも高かったということと、SNSにおける当該企業のファン層の質が高かったという効果が相まった結果、
「ファンを騙すためにおこなったわけではないのだろう」
「きっとこの企業なら汚名返上して、これからも頑張ってくれる」
という印象や期待あたえたため、SNS上での直接的な批判コメントや悪評が少なく、炎上も落ち着いたのではないかと推測されます。
11月の炎上【傾向と分析】
炎上の落ち着いた10月と比較して、11月は炎上件数が再び増加した月となりました。また、一つひとつの炎上規模も大きく、まとめサイト等で取り上げられる回数も多かったため、普段は炎上やトレンドに関心がないというユーザーも、SNS上の炎上動向に注目した月となったのではないでしょうか。
11月の炎上傾向として特に注視したいのは、女性蔑視や女性差別による炎上が多発したという点です。女性活躍推進運動が活発化したことにより、これまで何気なく発信してきた情報の細部にまでメスが入れられ、批判意見が寄せられるようになりました。企業による情報発信が企業イメージと直結するようになった今、安易な情報発信などでアンコンシャス・バイアスによる無意識の差別をおこなうことは、企業イメージの失墜につながる恐れがあります。SNS上のユーザーは、企業が発信する情報の一つ一つに誠実さを求めています。公式SNSアカウントで情報発信を行う際には
- 発信する情報がユーザーの期待に沿っているかどうか
- 無意識のうちに差別的な表現を行っていないか
- 誰が解釈しても平等で誠実な情報発信かどうか
という3点において、第三者など多角的な視点をとりいれつつ随時内容のチェックをしながら情報発信を行う必要があると言えるでしょう。
SNSルールブック作成で炎上を回避できる体制づくりを
情報発信前の事前チェックが重要となったことで、公式SNSアカウントにおける運用ルールブックの作成は企業としての急務となりつつあります。SNSルールブックを活用することで、安全かつパフォーマンスの高いSNS運用が実現出来ると言えるでしょう。
事前のWebモニタリングや炎上事例分析をすることで、 SNSのトレンドを抑えた効果的なルールブックを作成することにつながります。
「炎上事例の分析をおこなうノウハウがない…」
「SNSのトレンドっていったい何なの?」
というようなお悩みを抱えているかたは、 ぜひ レピュ研を運営するジールコミュニケーションズ主催の無料オンラインセミナーにご参加ください。最新の炎上事例の分析から、炎上の回避方法まで詳しく解説しております。