【2022年3月】企業炎上調査分析レポート

本レポートはレピュ研を運営する株式会社ジールコミュニケーションズが、独自の調査にから「企業の炎上」として判別した事例の分析内容です。先月特に目立っていた炎上事例とその発生要因を解説し、月間を通してどのような傾向、トレンドが見られるのか解説しています。
企業におけるWeb・SNS、及びレピュテーショナルリスクの管理、評価、対策等に活用していただくことを目的として毎月発表しております。

2022年3月の炎上件数の推移

ジールコミュニケーションズの独自調査・判定より、2022年3月の炎上件数は20件となりました。炎上タイプの内訳は下グラフの通りです。

2月で炎上発生の勢いは一旦落ち着いたと思われましたが、3月に入りまた盛り上がりつつあります。特に、激化しつつあるロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、政治・エンタメ・メディア・個人・法人それぞれの分野で戦争関連の炎上が目立ちました。

ロシアでの営業停止を表明しなかったため炎上

ロシアでの営業停止を表明しなかった企業に批判の声が集まっています。

問題となった企業は、世界20か国以上に店舗を出店するグローバル企業であり、その店舗数は1000店以上にのぼる世界でも有数のアパレル大手になります。ロシアでの出店も50店舗以上ありました。

現在ロシアによるウクライナ侵攻が激化し、多くの企業がロシアでの営業を停止し企業として反戦の意を示しめす中、当該企業の経営陣はメディアでの取材において

「衣服は生活の必需品であり、ロシアの人々も同様に生活する権利がある」

と、ロシアにおける営業を継続させる表明をおこないました。さらに、当該企業の公式SNSアカウントでは、営業継続や戦争に関しては一切触れず、まるで見て見ぬフリとでもいうように通常のキャンペーンをおこないました。

この対応に怒りの声を上げたのは、SNS上のユーザーでした。当該企業は世界有数のブランド企業であるため、率先して反戦の意を表明し、行動に移すべきだという声が多数あがったのです。公式SNSには、世界各国から以下のような批判リプライが寄せられ炎上状態となりました。

「ロシアで営業継続する理由はわかりません。もし経営が第一の理由でしたら残念です。」
「今、日本にできることはロシアへの経済制裁です。」
「軍事侵略を止めるのに経済の役割は重要です。連帯を示して下さい。」

このようなSNS上での反発に対応するかのように、炎上から約1日後に当該企業は急遽方向転換をし、ロシア店舗の営業停止を表明しますが、手のひらを返したかのような経営方針の変更がさらに批判をよび、二次炎上してしまう事態となりました。

SNSで「触らぬ神に祟りなし」は通用しない

今回の炎上において最も特徴的なのは、経営陣のロシア営業継続の件のみが批判されたのではなく、公式SNSが当たり障りのない情報発信ばかりをおこなっていたことも要因となっている点です。

そもそも、当該企業は戦争という非人道的な行動に対して一貫して非難する姿勢を貫いており、実際に多額の資金や物資の援助をおこなっています。その一方で、企業とユーザーとの距離が最も近くなるSNS上では戦争に対して言及せず、あたかも平和であり何もなかったかのように無関係のキャンペーンや商品PRの情報を発信しつづけました。これによって、企業としての責任を果たしていないとユーザーから捉えられてしまいましたが、この現象はジェンダーや人権など様々な分野でも見受けられます。

SDGsの認知度が上がり、企業がダイバーシティや人権に配慮することはもはや当たり前の時代となりました。実際に、経済産業省がおこなった「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査」によると、上場企業の約70%が人権尊重に関して、人権方針を策定、または企業方針、経営理念、経営戦略などに明文化していると回答しています。

経済産業省 「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査」より抜粋

このような社会の流れにおいて、企業として自ら「正しい」主張をおこなうことに対するユーザーの期待値は上がっています。逆に、人道に反する行為は過度にバッシングされると同時に、それについて言及しないことも企業として無責任であるという風潮が強まりました。また、SNSの台頭により、ユーザーが企業に対してイメージを抱く際の判断材料のとなるのがSNSの情報となりつつあります。つまり、企業として「正しい」主張をおこなうことをユーザーから期待されており、そのジャッジを下すフィールドがSNSとなりつつあると推察されます。

ウクライナ侵攻によって緊迫した世界情勢となり、多くの公式SNSアカウントを運用している企業は「戦争に関連した情報発信による炎上」がリスクだと考えるでしょう。「戦争」自体が命や人権などセンシティブな要素を包括したキーワードになるので、不用意に戦争に触れることで企業の主義主張を曲解され、炎上に至るリスクはもちろん存在します。当該企業もおそらくそのように考えたと推察されます。しかし、それとは逆に「戦争に触れないこと」によって発生するリスクもあり、国際的なブランド企業として、そして企業としての反戦の意をSNS上で表明するべきだったといえるでしょう。

多くのSNSのユーザーが、日本のリーディングカンパニーとしての立ち振る舞いを期待し、見守っています。SNSにおいて「触らぬ神に祟りなし」は通用しないのです。

以前から「人権問題」で注目されていた

当該企業は、今回のウクライナ侵攻の問題とは別の人権問題に関しても、疑惑を抱えていました。新疆ウイグル自治区の強制労働にて供給された新疆綿を使用しているとして、2021年7月に問題視されています。当該企業は記者会見において「第三者の監査機関に入ってもらい、人権に問題がないことを確認している。」と説明しましたが、デジタルタトゥーとしてSNS上での疑いの目は晴れることはありませんでした。実際に、今回の炎上に関しても

「ウイグルの人権問題の時も思ったが、本気で経営を考えるなら道理に反した国は即刻排除すべきなのに、それが出来ない背景には儲け主義があるように感じる。」
「そもそもウイグル地区の人権侵害が問題視された時、当企業が取引しない事を表明しなかった時点でロシアでの営業継続表明はあっても不思議ではなかった。」

というシビアなコメントが目立ちました。

このように以前から人権という分野でにおいて企業の資質が問われたにも関わらず、ユーザーから期待される対応をおこなわなかったことは悪手だったと言わざるを得ません。

世界情勢を踏まえた演奏中止発表が批判され炎上

ロシアのウクライナ侵攻に対応して、演奏会の曲目変更を発表した団体が炎上しました。

当該団体は定期演奏会において、チャイコフスキーの序曲「1812年」の演奏を予定していました。チャイコフスキーはロシア出身の著名なクラシック作曲家であり、序曲「1812年」はナポレオン1世によるロシア侵攻を撃退した歴史をもとに作曲された曲です。また、演奏時に大砲を使用する場合もあるなど、戦争をイメージしやすい曲でもありました。これに際し、公式Twitter上で

【お詫び】定期演奏会にて演奏する予定だったチャイコフスキー/序曲「1812年」は現在の世情を踏まえて演奏中止となりました。楽しみにしていただいた皆様には大変申し訳ありませんがご理解のほど、よろしくお願いいたします。

実際のツイートより引用・抜粋

しかし、この発表に対して

「敵性文化の徹底排除はいくら何でもやり過ぎ」
「歴史認識、事実認識、そもそも芸術とは何か、じっくり議論を尽くしたの?」
「現状のロシアとゆかりのない作品を排除する社会的影響も重視すべき。」

など、特にクラシックファンを中心に強い批判の声が上がり、炎上に発展する事態となりました。当炎上に関して取り扱ったまとめ記事が複数制作されており、今後のレピュテーションが懸念されます。

主張の少なさが招く炎上

炎上後、当該団体は以下のような弁明ツイートを投稿しました。

様々なご意見ありがとうございます。
団内でも「作品に罪はない」「今回の侵攻とは曲の背景が真逆」であることから中止する必要はないとの声もありましたが、「今の状況では演奏するのは抵抗がある」との声が多く中止することとなりました。
気兼ねなく演奏できる日が早く来ることを願うばかりです。

実際のツイートより引用・抜粋

この言葉少ない弁明がさらに批判を生み、二次炎上することとなりました。

弁明ツイートのリプライ欄は、

  • 曲の背景を知った上で擁護する人
  • 曲の背景を知った上で批判する人
  • チャイコフスキーがロシア人だから演奏中止にしたと考えて批判している人

に分かれています。しかし、今回の演奏中止は、楽曲のテーマが「ロシアの勝利」であることや戦争をイメージしやすいからであって、チャイコフスキーがロシア人であることは関係ありません。当該団体は、演奏中止に至った理由の詳細を明記し、そのうえで謝罪をおこなう必要があったと言えるでしょう。弁明文に文章を付け加え、

チャイコフスキーの楽曲、ひいてはロシア由来の楽曲に対しては、深い敬愛の念を抱いております。しかしながら、当楽曲のテーマは現在発生している「戦争」をイメージしやすく、そのため演奏に抵抗がある団員が複数名おります。本来、芸術とは政治や世論に左右されるものでないことは重々承知しておりますが、団員の心のケアを優先し、演奏中止の判断をいたしました。

等の一言があれば、世論に流されたことに対しての批判や、ロシア人作曲家だから演奏中止にしたと考えているユーザーを納得させることが出来たのではないでしょうか。

「戦争」はセンシティブなテーマのため、SNS上での情報発信には配慮が必要とはなりますが、一方で必要な主張を怠ったために二次炎上となるケースもありますので注意が必要です。

3月の炎上【傾向と分析】

2月に引き続き、3月も全体的にロシアのウクライナ侵攻など時事的な話題で一色となりました。ウクライナ侵攻に関しては、コロナと同じく今後も頻繁に話題となるトピックとなりますので、速報など話題の動向を鑑みた情報発信が必要になると言えるでしょう。

情報発信の際に特段気を付けたいこととして、発信する情報に関する適切な選択があります。センシティブなトピック、例えばダイバーシティや人権問題、戦争のような激しい対立などは、様々な意見が入り乱れるため、不用意に触れると炎上するリスクが高まります。炎上とは、ユーザーが企業側に抱くイメージと、実際に企業が発信した情報の解釈に齟齬がある場合に発生することがほとんどですが、3月に多く見られた炎上として、企業が情報発信をしないことによってユーザーの持つイメージを損なうケースがありました。1つめに解説した「ロシアでの営業停止を表明しなかったため炎上」した事例は顕著なケースです。

人権デューディリジェンスなど、企業にビジネスとして求められる人権意識のハードルが上がった今、沈黙ばかりがリスク回避とはなり得ないことを認識する必要があります。

事例の分析で、炎上リスクのノウハウを蓄積

ジールコミュニケーションズが開催している無料のオンラインセミナーでは、今回ご紹介した炎上事例の他にも、様々な事例をさらに深掘りする形で解説しております。セミナー中の炎上事例解説では、データに基づいた炎上トレンドや、具体的に注意すべき投稿内容についてお伝えしております。

ぜひ、弊社セミナーにご参加の上、今後のSNSリスク対策にお役立ていただければ幸いです。

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