本記事では、企業としてSNSを運用する際に、どのようにして女性蔑視的な表現や発言を回避するべきかについて解説します。
昨今、SNS炎上の原因として「女性蔑視」や「女性差別」が頻繁に取り上げられるようになりました。特に、SNSにおけるフェミニストや女性活躍推進の運動家の活動が活発化したことにより、以前よりも女性に対するセンシティブな表現や文章は制限されるようになりました。このように各企業がSNS運用における表現や発言に十分考慮しているにも関わらず、女性蔑視による炎上は減るどころか増加しつつあります。女性蔑視表現に注意していても、無意識のうちに存在している女性への差別的感覚が形となって現れることを「アンコンシャス・バイアス」と呼びます。
今回は、無意識のうちに女性蔑視的表現で企業SNSを炎上させないために必要な、アンコンシャス・バイアスの基礎知識と回避方法をお伝えします。
目次
アンコンシャス・バイアスとは一体何?
アンコンシャス・バイアスとは「無意識の思い込み・偏見」と訳される概念の一つです。私たち人間は、育った環境や生活・体験・聞いたこと話したことなど、これまで培ってきた経験に基づいて、物事の判断基準や照合をおこなっています。その際に、「この人は〇〇だからこうだろう」「ふつう〇〇だからこうだろう」というように、あらゆる物事を自分なりに解釈した結果、無意識のうちに差別や先入観をもって捉えてしまうことを指します。
ジェンダーの観点での例を挙げると、
・ お茶くみの仕事というと女性を連想する(男性は連想しない)
・ パートタイマーというと主婦を連想する
・ DV(家庭内暴力)の被害者というと女性を連想する
などがあげられます。
タイプ別に分けるアンコンシャス・バイアス
アンコンシャス・バイアスは、主に5つのタイプにわけてみることが出来ます。
ステレオタイプ
属性やこれまでの経験・背景にもとづいて、ジェンダーや国籍・皮膚の色等から先入観をもって他者を判断するタイプです。
《例》
・「親が単身赴任中」というと父親を連想する(母親を連想しない)
・年配(高齢者)の人は頭が堅く、多様な働き方に対応できない
・黒人は犯罪者が多くて怖い
正常性バイアス
正常性バイアスとは、危機的状況や不測の事態に陥った時でも「自分は問題ない」と思い込むことで、心の平穏を保とうとすることを指します。自分に都合の悪い事実やデータを無視して楽観的に物事を捉えてしまう傾向があるため、気づいた時には対処の使用がなくなっているというケースも多くあります。
《例》
同僚が社内や顧客データの入ったUSBを失くしてしまった。まさか自分はそんな問題を起こさないだろうと思い、楽観視してUSBのチェックを怠っていたら、今度は自分が社用USBを紛失してしまい、顧客データなど個人情報が流出してしまった。結果的に、会社の信用度はがた落ちしてしまった。
集団同調性バイアス
周囲と同じように振る舞えば大丈夫、という判断から所属する企業や組織の主流となっている考え方を踏襲し、また周囲も同じく振る舞うように強制することを指します。
《例》
「みんなこういっているから、あなたも同じようにしたほうが良い」
「うちの会社ではみんな〇〇でやっているから、あなたも同じように〇〇しろ」
確証バイアス
自分の経験や意見を肯定したいがために、それを正当化する意見ばかりを鵜呑みにし、それ以外を排除しようとすることを指します。客観的意見や根拠のあるデータを否定し、時には重大な判断ミスを招いてしまうケースもあります。
《例》
「女性はおとなしく従順であることが幸せにつながる」という意見に基づいて、Twitter上で自身の意見を肯定する投稿ばかり「いいね」をする。
権威バイアス
社長や管理職など、組織的に高い地位にいる人の意見は絶対だと思い込むことを指します。このバイアスにより、自身の考えや意思とは関係なく権力者に意見に従うことになるので、次第に自身の考えがなくなり、思考力の低下を招きます。
《例》
「上司が〇〇と言っている。私は△△と思っているが、上司の意見が正しいのだろう。」
「データに基づいた判断から△△だと考えるが、あの偉い学者先生は〇〇だといっている。私が間違っているのだろう。」
誰しもがアンコンシャス・バイアスをもっている
アンコンシャス・バイアスについて、「私はそんな先入観は持っていないはず」「ジェンダーや人種問題に敏感だからアンコンシャス・バイアスなんてないはず」とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、アンコンシャス・バイアスとは特定の人がもつ先入観ではなく、誰しもが持ちうるものであることに注意しなくてはなりません。
下の図は、 内閣府男女共同参画局が令和3年に調査・発表したアンコンシャス・バイアスについての抜粋データです。設問によっては、 約50%以上の男女が、アンコンシャス・バイアス的な意見に対して肯定、または意識していると回答しています。
内閣府男女共同参画局 『令和3年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究 』 より抜粋 (https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/seibetsu_r03.html)
SNS炎上におけるアンコンシャス・バイアスの影響
では、このアンコンシャス・バイアスはSNS運用をする際にどのような影響を与えるのでしょうか?実際の事例からアンコンシャス・バイアスによるSNS炎上の過程を読み解いていきましょう。
地方自治体発行の女性応援ハンドブックがSNSで炎上
ある地方自治体が発行した女性応援ハンドブックが女性蔑視的だとして炎上しました。経緯は以下の通りです。
- ある地方自治体の働く女性応援課が『女性応援ハンドブック』を作成・発行
↓ - 公式SNSで宣伝・情報発信をおこなう
↓ - 仕事と家庭の両立が欲張りと捉えられる文章が注目され物議を醸す
↓ - さらに『ワーキングママの心構え』という項目で働く母親に対して不満を寄せるようなセリフを掲載し炎上
このような、自治体の仕事と家庭の両立は欲張りであり、特に働く母親層は周りに感謝をして生活しなければならないという主張に対して、SNS上では
・『女は子育て、男は働け』という古い価値観を引きずっているようで不愉快。
・時代錯誤も甚だしい。子育ては女性がするもの。仕事するなら会社や夫に迷惑をかけるな。っていつの時代ですかね。
・働く環境整えて周囲の人がママに気を配るならわかるけど、ママが配慮するということには行政の頭の古さを感じるな。
というように、日本社会に蔓延る古い価値観を自治体が引きずっており、なおかつ押しつけをおこなっていると批判されました。
この事例にみられるバイアスの種類
今回の事例では、ステレオバイアスと集団同調性バイアスの2種類が当てはまります。
当該炎上事例に存在するステレオバイアス
当該『女性応援ハンドブック』では、女性が育児と仕事を両立させる場合、女性は周りの環境に対して過度に感謝することを促しており、仕事環境の改善は目指していません。これは、「男は仕事をし、女は家を守る」という日本の古い価値観が無意識のうちに具体化されてしまった例となります。それを象徴するのが、『ワーキングママの心構え』のページに掲載されている、夫の意見として紹介された以下のセリフです。
「『私ばっかり家事と育児をしている』というけど、こっちだって仕事で疲れてるんだよね。夜泣きがうるさくても我慢してるし、多少は手伝っているんだから、勘弁してほしいな…」
このセリフで夫は「仕事・家事・育児」をこなしている妻に対し、慮るところか、夫婦共同の仕事であるはずの育児を「我慢」「手伝う」と言っています。このセリフから、「育児は女性の仕事である」=「男性は育児を手伝っているだけで許される」という古い価値観をもってハンドブックを作成したと推測することができます。
当該炎上事例に存在する集団同調性バイアス
企業や組織の主流となっている考え方を踏襲し強制するバイアスですが、今回の場合は「日本の主流として存在した古い価値観」に同調し、押し付けているとも見なすことが出来ます。当該ハンドブックを作成した女性活躍応援課のメインメンバーは、ほとんどが50代以上の男性でした。年齢を重ねた男性がひとくくりにアンコンシャス・バイアスを持っているわけではありませんが、人生のほとんどの時間を「男は仕事をし、女は家を守る」という考えが主流の環境で過ごしたため、その概念から抜け出すことが出来なかったのではないかと考えられます。
アンコンシャス・バイアスによるSNS炎上を防ぐために
アンコンシャス・バイアスの恐ろしさは、自分の中に存在していることを認識しづらいという点です。しかし、差別的表現を無意識に行ってしまうことは、女性や社会的マイノリティなど、様々な個性を持つ多くの人々を 意図せず傷つけかねません。特に、SNS上では多様な意見や目線を持ったユーザーが存在するため、自身とっては単純な情報でも、無意識での偏見が入り混じった結果、ある特定の意見をもつユーザーにとっては侮辱的な表現だととらえられてしまう可能性があります。
企業として、アンコンシャス・バイアスを認識し情報発信における炎上を回避するための施策には以下の2つが挙げられます。
社内での研修をおこなう
社内でのアンコンシャス・バイアスに関する研修をおこない、普段からSNSで情報発信している従業員や、企業の公式情報を発信しているSNS担当者へ啓蒙することが有効な施策となります。アンコンシャス・バイアスは誰もに存在するものにも関わらず、その認知率はわずか21.6%だと言われています。企業による研修教育がなければ、その名前さえ知らずにいる可能性もあるのです。そのため、そもそもアンコンシャス・バイアスとは一体どのようなものなのか、どのようにして気を付けていくべきかについて、会社主導で教育していく必要があると言えるでしょう。
アンコンシャス・バイアスのチェックをおこなう
アンコンシャス・バイアスの存在を知っただけでは、炎上の回避にはつながりません。自身の心の内にどのようなアンコンシャス・バイアスが存在し、具体的にどのようなことに注意しなければならないのかを把握しなければ、SNSの炎上を回避することはできません。
内閣府男女共同参画局が公表しているデータには、実際のアンケート調査で使用された30以上もの設問が記載されています。こちらを参考に、簡単なチェックテストをおこなうなど、まずは自身の中にあるアンコンシャス・バイアスに気づかせることが重要です。
《参考》 内閣府男女共同参画局 『令和3年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究 』 (https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/seibetsu_r03.html)
SNSを炎上させないための社内体制を構築する
アンコンシャス・バイアスを把握しSNSでの炎上を回避するためには、先述の2つの施策とあわせて教育をおこなうことの出来る社内体制を構築していくことが必要となります。
レピュ研を運営するジールコミュニケーションズでは、社内のSNS教育を含めた様々なソリューションをご提供し、SNSでの炎上を防ぐための社内体制構築のサポートをおこなっております。
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