本レポートはレピュ研を運営する株式会社ジールコミュニケーションズが、独自の調査にから「企業の炎上」として判別した事例の分析内容です。先月特に目立っていた炎上事例とその発生要因を解説し、月間を通してどのような傾向、トレンドが見られるのか解説しています。
企業におけるWeb・SNS、及びレピュテーショナルリスクの管理、評価、対策等に活用していただくことを目的として毎月発表しております。
目次
2022年1月の炎上件数の推移
ジールコミュニケーションズの独自調査・判定より、2022年1月の炎上件数は21件となりました。炎上タイプの内訳は上記グラフの通りです。
2021年の年末にかけて減少傾向にあった全体の炎上母数が、今年に入ってから再び増加しつつあることが分かります。特に、個人による炎上と法人炎上はほぼ同等数発生しており、法人炎上の日常化が伺えます。
競走馬に許可なく触る動画をあげたため炎上
とある研修生がTwitterにアップロードした動画の内容に対して、危険な行為だとして批判の声が集まっています。
研修生は勤務先とは別の現場に足を運んだ折、種付け前の競走馬の口元に触れ、その様子を動画でTwitterに投稿しました。しかし、競走馬にとって種付け前というタイミングは大変デリケートな時期です。さらに馬は噛む力が非常に強いため、下手をすれば大けがに発展しかねません。この動画を見た競馬関係者および競馬愛好家からは
「馬が怒って怪我をしたら、誰の責任になると思っているのか?」
「サラブレッドは経済動物だから、馬の価値をもっと考えるべき!」
と、猛烈に批判をおこなわれ炎上に発展しました。この批判に対し、当該研修生は「安全だと判断したから馬に触れた」とSNS上で弁解を行いましたが、炎上の勢いは加速し、特定活動などが積極的におこなわれはじめます。炎上から約1週間ほど経過し、研修生の勤務先牧場が公式Twitterにて謝罪文を発表しましたが、依然として水面下での特定活動やまとめ記事の作成が続いている状態です。
炎上時におけるエスカレーションフローの重要性
今回の炎上では「SNSリスク対策」という観点において、炎上時の対応方法とその判断力の欠如が、炎上が長期化したポイントとなります。先月の炎上動向レポートでもご紹介したように、炎上の収束のための「社内体制構築」とその3つのフェーズの1つである「有事の際の対応フロー整備」は大変重要な要素となります。対応フローの整備とは、炎上の際にどのようなタイミングで、どのような対応をおこなうべきかという判断基準を体系化したものです。今回の炎上で、当該企業・研修生はある2つの誤った対応方法をおこなったため、炎上が長期化する事態となりました。
個人の判断で弁明をおこなった
批判を受けた研修生は、自身のSNS上で弁明・謝罪をおこなったことで、さらに窮地に陥ることとなりました。
施設の運営会社さんと私の勤務先と協議した結果、今日この場をお借りしてお騒がせしている動画の件についての経緯説明を致します。
実際の投稿抜粋・要略
なお、私の個人情報を執拗に探し当てTwitter上に掲載している方々には法的措置をとらせていただきます。
もちろん、いたずらに個人の情報を特定しSNSに投稿して情報の拡散をおこなうことは咎められてしかるべき行為です。しかし、冒頭で謝罪の言葉を述べるどころか、ある意味批判をおこなっているユーザーに対して宣戦布告のような態度をとったことから、SNS上では「反省していない」と見なされてしまい、ますます批判が加速することとなってしまいました。
企業の非公開指示と遅すぎる謝罪対応
研修生の強気な態度で炎上が加速したことをうけ、当該企業は研修生のSNSを非公開、または削除するよう指示をしました。しかし、一般的にSNSの非公開や削除をおこなうとSNSでは「逃亡した」というように問題を直視していないと捉えられ、批判意見がますます勢い付く傾向にあります。
また、炎上のピーク過ぎに当該企業が謝罪対応をおこなったことも問題点の1つです。適切なエスカレーションフローに当てはめて炎上の対応をおこなうならば、問題の動画が投稿されたタイミングに気づき、
現在調査中のため、報告内容が整いましたら改めてご報告いたします。お騒がせ致しましてもうしわけございませんでした。
といったような、企業としての真摯な姿勢をSNS上のユーザーに示す必要がありました。また、炎上後はSNS上のユーザーの目もシビアになっているため、早期の謝罪は必要不可欠です。謝罪が遅れれば遅れるほど、ユーザーからは
「この企業は炎上して責められているのに、のらりくらりと躱している」
「責任を負うという姿勢が感じられない」
と見なされてしまう恐れがあります。
女性に焦点を当てたCMのキャッチコピーで炎上
女性をターゲットにしたCMのキャッチコピーが女性蔑視的だとして炎上しました。放送されたCMのキャッチコピーは以下のようなものでした。
日本の女性は世界で一番睡眠時間が短い。
当該CMナレーションより抜粋・要略
彼女たちに必要なのは睡眠環境をサポートする〇〇
このキャッチコピーに激怒したのがSNS上の主婦層でした。日本女性の睡眠時間が短い背景として、女性が家事を負担せざる負えない社会的風潮があることとを指摘し、当該CMのキャッチコピーが女性蔑視的な風潮を助長させているとして反発しました。
時代錯誤なキャッチコピーが招いた女性蔑視
先月のジェンダー・ロールに基づく炎上事例と同じように、古い価値観をアップデートしていないことによる時代錯誤の炎上も、最近になって頻発している傾向にあります。特に、性別による役割分担や、「昔は良かった」「今の若い人多たちは…」といった言葉に代表されるような懐古主義的な表現は炎上を招きやすいため注意が必要となります。例としては下記のような表現が挙げられます。
- 「昔は良かったのに/楽しかった」等の表現
- 「これまでどおりにすれば大丈夫」等の、アップデートを考慮しない表現
- 「今どきの若者は…」といった、以前との比較表現
- 「パソコンやツールは人の温かみに欠けて良くない」等の表現
- 「あなたの考えにはついていけない」等の、他社との寄り添いを拒否する表現
- 「私は古い人間だから…」等の開き直った表現
経験則に従うこともタスクをこなすうえでは重要な要素ではありますが、古い価値観をアップデート出来ていない投稿や情報発信をおこなうことは、企業としての体制もアップデート出来ていないと宣伝していることも同じです。短く、簡潔な言葉で情報をつたえるSNS上のユーザーは、企業が投稿した文章の行間を読むことに長けています。今後は、言葉遣いや、その表現方法に至った背景にまで気を配った情報発信が求められると言えるでしょう。
2022年1月の炎上【傾向と分析】
年末にかけて落ち着いた炎上件数がぶり返したこともあってか、炎上に関するニュースを聞かない日はない、というほど頻繁に炎上が発生した1ヵ月となりました。さらに、個人と比べて法人の炎上事例が増加している点も目立ちました。
ジェンダーに関する炎上が立て続けに発生していることは、 以前から弊社でも注力してお伝えしている通りですが、炎上による企業への悪影響度がエスカレートしていることもジェンダー炎上の傾向として挙げられます。ジェンダー問題によって炎上した場合、その企業を擁護する意見が大半の場合でも、擁護派は率先してにポジティブ意見や反論の拡散をしないため、必然的にネガティブな意見が大多数を占めるかのように見られ、結果的に批判の声が優先されてしまうという特徴があります。
ジェンダーによる炎上を根本から解決するためには、ジェンダー差別における根幹の問題として存在する「男性は外で仕事をおこない、女性は家で家事をおこなう」という日本の古い価値観に依存した思想をアップデートしていく必要があります。この価値観は、私たちの生活に溶け込み日常的に存在しているため、強く意識をしなければ、自身の中にあるジェンダー差別的な考えに気づけない可能性があります。(ジェンダー・バイアス)
意図しないジェンダー炎上を防ぐためにも、まずは自身の中にあるジェンダー・バイアスに気づき、是正していくことが、企業を炎上から守る第一歩となります。
その他の炎上事例分析はオンラインセミナーで
ジールコミュニケーションズが開催している無料のオンラインセミナーでは、今回ご紹介した炎上事例の他にも、様々な事例をさらに深掘りする形で解説しております。セミナー中の炎上事例解説では、データに基づいた炎上トレンドや、具体的に注意すべき投稿内容についてお伝えしております。
ぜひ、弊社セミナーにご参加の上、今後のSNSリスク対策にお役立ていただければ幸いです。