企業にとって、社会的な信用の失墜は経営危機にも直結しなかねない重大な問題です。しかし、起こり得るすべての不祥事を完璧に予防するのは簡単なことではありません。自社に原因がある場合ばかりでなく、風評被害によって信用を失ってしまうケースもあるためです。このような場合、信用を取り戻すために、迅速かつ適切な対応を行わなければなりません。そのために欠かせないのが、「危機管理」です。今回は、危機管理とは何かということをはじめ、危機管理の必要性や実践方法について解説していきます。
目次
危機管理とは何か?リスク管理との違いは?
「危機管理」と聞いて、正確な定義が思い浮かぶ人は少ないのではないでしょうか。危機管理の重要性を知るためには、まず危機管理とは何かを知っておかなければなりません。危機管理の基本的な内容をはじめ、リスク管理との違いについて解説します。
危機管理の定義
危機管理とはクライシスマネジメントとも呼ばれるもので、「起きてしまった危機的な状況に対し、それ以上自体が悪化しないように管理する」ことを意味します。クライシスの語源は「将来を左右する分岐点」であり、危機への対応はまさに企業の将来を左右するものです。企業においては、たとえば販売した商品などに欠陥が判明した場合や、従業員が違法行為などのトラブルを起こした場合などで危機的な状況に陥ることがあります。このような事態が発生したときの適切な対応方法を事前に準備しておけば、速やかに危機的な状況から離脱できる可能性が高まります。
リスク管理との違い
危機管理と似ている言葉に、「リスク管理」があります。危機管理が「すでに起きてしまった危機的な状況の管理」であるのに対し、リスク管理は「これから発生する可能性のあるリスクを発生させないための管理」です。まだ起きていない事態に備えるためのものであり、危機管理とは異なります。
企業に危機管理が必要な理由とは?
企業にとって、万が一の事態に対応する危機管理は欠かせないものです。危機管理が徹底されていなければ、危機的な状況がさらに悪化しかねません。ここでは、企業に適切な危機管理が必要な理由を具体的に見ていきましょう。
リスクが顕在化する可能性
どんな企業も、経営を続けていくうえで大なり小なり潜在的なリスクが存在しています。潜在的なままで終わってくれれば良いのですが、場合によってはリスクが顕在化してしまうケースも珍しくありません。リスクは経営を圧迫するおそれもあるため、顕在化した際には適切に対応する必要があります。いざ顕在化したときに慌てないように、前もって危機管理体制を整えておくことが大切なのです。
倒産の可能性
事業の内容により、事故や火災、商品の欠陥や顧客情報の漏えいなど危機のタイプはさまざまです。こういった危機に直面してしまう企業は多く、いざトラブルが発生したときに誤った対応をすれば倒産の危険も高まります。危機管理への取り組みが不十分な状態では危機を乗り切れない可能性も高まってしまうため、事前の危機管理が欠かせないのです。
危機管理の具体的な対策を知っておくべき!
危機管理を徹底する場合、まず大切なのはマニュアルを作成して企業内で共有することです。企業全体で危機的状況発生時の対処法を理解しておけば、スムーズかつ正しく問題を認識して対応できます。マニュアルを確認すれば、危機への対応漏れがないかのチェックも可能です。マニュアル作成は潜在的なリスクを洗い出し、危機管理計画を検討することから始めましょう。危機が発生した後の情報共有体制を重視して作成し、マニュアルは2部構成とするのが基本です。1部は全員が共有するもの、2部は各部署の責任者が共有するものとして危機管理に必要な情報を網羅します。
危機管理の事例紹介
言葉でいくら説明を聞いても、危機管理について具体的にイメージしにくいという人も多いでしょう。そんな場合は、実際に企業が行っている危機管理を参考にするのも効果的です。ここでは、具体的な危機管理の事例を紹介します。
事例1:自治体の事例
危機管理を行っているのは、企業に限ったことではありません。公的な役割を果たす自治体も、リスクを避けるために危機管理を徹底しているケースが多いのです。たとえば、金沢市では新型インフルエンザやライフラインの事故、野生動物の被害といったリスクに対し、事前対策を細かく策定しています。また、被害を最小限に抑える対応や、危機的状況が去った後の安定を図るための事後対策も含め、総合的な危機管理計画を立てています。
事例2:企業の事例
企業にとって、経営上の危機だけでなく、従業員の安全を確保することも重要な危機管理のひとつだといえます。多くの企業では、地震や火災などの災害が起きた際、従業員を速やかに安全な場所に避難させるためのマニュアルが作成されています。従業員を守ることが、平常状態へ復旧するための近道となるでしょう。また、企業が運営するSNSアカウントが炎上した場合も危機管理が活用されます。担当者が自ら火消しに走るのではなく、専門家に相談しながら会社の方針を決めて冷静に対処するというのが一般的です。
危機管理の課題も押さえよう!どう取り組めばよいのか
危機管理は企業の救いとなることが多いですが、場合によっては課題が浮き彫りになるケースもあります。課題を放置していると、正しい効果が得られない可能性もあります。ここでは、危機管理の課題とは何か、課題への対応策はあるのかという点について解説します。
予見力の弱さがある
企業の危機管理では、リスクの予見力や被害を軽減させる力の弱さが課題となります。社会情勢などは日々変動するため、想定されるリスクも流動的になりがちです。このため、敏感に世の中の動きを感じ取り、リスクを見直して質の高い対策を講じなければなりません。
経営陣は、このような危機管理意識を向上させるために、定期的に会議を開催して危機管理が重要なポイントだと認識する必要があります。さらに、積極的に危機管理における訓練を行い、改善点を見つけたり従業員全体が共有できるシステムを構築したりすることが大切です。
組織全体での危機管理が難しい
一般的な企業では、業績に直接影響しなかったり人員が不足したりして、危機管理の徹底に理解が得られないケースもあります。従業員の協力がなければリスクが増大してしまう恐れもあるため、まずは経営陣が危機管理の重要性を認識し、リーダーシップを発揮して積極的に取り組まなければなりません。
企業危機管理士認定試験について紹介!取得に向いている人は?
企業に万一のトラブルが発生した場合、事態を乗り切るためには危機管理が欠かせません。そんな危機管理の専門家ともいえるのが、「企業危機管理士認定試験」を突破した企業危機管理士です。ここでは、試験の内容や、資格取得に向いている人を紹介します。
企業危機管理士とは
企業危機管理士とは、企業や組織の危機に際し、リスク管理と危機管理を適切に行うスキルがあることを認められた人のことです。企業危機管理士認定試験に合格した人のみが取得できる資格で、企業の危機発生時にリーダーシップをとれる人や管理職などに向いています。危機管理に関するさまざまな知識や実践力を持っている証明にもなるため、取得者は企業の中枢に携われる場合もあります。
認定試験の内容
企業危機管理士認定試験は、企業の社会的責任や危機管理の構築といった、リスクにかかわる基本的な知識や安全対策などが主な出題範囲です。試験は日本各地の会場で行われ、受験料は税抜き10000円です。試験時間は2時間で、基本的に70%以上得点できれば合格となります。受験資格などは特になく、誰でも自由に受験することができます。
ネット炎上への危機管理が重要!対策はどうする?
SNSが盛んな現代では、いわゆる「ネット炎上」への危機管理対策も急務となっています。ネット炎上とは、インターネット上のSNSなどで特定の個人や企業に対する批判や意見が集中し、収集がつかなくなる状態のこと。企業で炎上が発生する原因は、従業員や第三者のさまざまな告発のほか、従業員の不祥事などが挙げられます。中には企業の知名度を上げようとして故意に炎上させるケースもありますが、イメージ低下によるダメージも深刻です。こうした炎上はタイプによって対処法が異なる難しい危機管理なので、専門家に相談して適切な情報を得ることが大切です。
経営に影響が大きいネット炎上への危機管理意識を高めよう!
危機管理は直接利益を生み出すものではないので軽視されることもありますが、企業にとって経営に大きな影響を与える可能性がある重要なポイントです。いざ危機的な状況が発生してから対策を協議しているようでは、その間にも社会的な信用を失って致命的なダメージになりかねません。特に、ネット炎上への危機管理は専門的で難しいケースも多いので、セミナーを受講して最新の情報を得ることが大切です。時代に合った危機管理を実践できるようにしましょう。