昨今、企業のプロモーション施策として一際注目を浴びている「インフルエンサー・マーケティング」。インフルエンサーにプロモーションを依頼して消費者の認知度や購買欲を上げる手法ですが、正しい手順や注意点を守らないと炎上が発生し、かえってブランドイメージを低下させてしまうリスクも孕んでいます。
本記事では、インフルエンサー・マーケティングとは具体的にどういったものなのか?注意すべき代表例としてあげられる「ステルス・マーケティング」とはどのようなものなのかといったノウハウについて解説いたします。
目次
インフルエンサー・マーケティングってなに?
インフルエンサーってどんな人たちなの?
インフルエンサーとは、TwitterやInstagramといったSNSでの情報発信を通じて、社会に対して多大な影響を与えることができる人物のことを指します。インフルエンサーは取り扱う情報の専門分野やフォロワーの数で区分され、最も影響力の強いとされているメガ(トップ)インフルエンサーのフォロワー数は一般的に100万フォロワー以上とされています。
インフルエンサーマーケティングの仕組み
それでは、インフルエンサー・マーケティングとは一体どのようなものなのでしょうか?インフルエンサーマーケティングの仕組みに関して、従来型のマーケティングと比較する形で解説してきます。
企業や法人がおこなう従来型のマーケティングとは、消費者に対してメディアや広告を通して企業・法人は「商材の宣伝」という形で消費者へのアプローチをおこなっていました。
一方でインフルエンサーマーケティングとは、企業・法人がインフルエンサーが保有する莫大なフォロワーを利用しておこなう、マーケティング施策を指します。インフルエンサーが企業に依頼されて発信・宣伝した情報をフォロワーが再拡散し、またフォロワーのフォロワーが再々拡散することにより、幅広い層に対して認知度を広めるととともに、購買欲を向上させることが可能となります。
また、情報が再拡散されるたびに情報に対して「本当」に興味を抱いたフォロワーが洗練されていくため、深い層、例えばフォロワーのフォロワーのフォロワーなど段階数を経て購入に至った消費者の興味関心は、それ以上の層で獲得した消費者よりも高いことが見込まれます。
さらに、インフルエンサーは情報発信で認知してもらうだけではなく、認知後のナーチャリングや購買欲を高めるとともに、リピートさせ続けるという循環を、さまざまなプラットフォームからアプローチすることが可能と言われています。
インフルエンサー・マーケティングの市場規模変化
そんな、昨今注目されているインフルエンサー・マーケティングですが、実際に市場の変化も大きくなっています。サイバー・バズ/デジタルインファクトの調査では、2027年までには市場規模が約1.7倍までに拡大することが見込まれています。
さらに、株式会社バニッシュ・スタンダードの調査データによると、約18%の消費者がインフルエンサーを参考に商品を購入すると回答しており、そのうちの13%が専門テーマを持つマイクロインフルエンサーを参考にすると回答しています。
このように、インフルエンサー・マーケティングの市場は企業だけでなく、消費者にとっても最もホットな市場だといっても過言ではありません。
インフルエンサー・マーケティングに潜む炎上リスク「ステルス・マーケティング」
潤沢なメリットのみが注目されがちなインフルエンサー・マーケティングですが、一方で施策をおこなうことによるデメリットも孕んでいます。それは、間違ったインフルエンサー・マーケティングを行うことによって発生する炎上リスクです。その代表的なリスクとして挙げられるものの中に「ステルス・マーケティング」(ステマ)があります。ステルス・マーケティングとはいったいどのような手法のことを指すのでしょうか?
インフルエンサー・マーケティングにおけるステルス・マーケティングとは?
そもそもステルス・マーケティング(ステマ)とは、どのようなマーケティング手法のことを指すのでしょうか?
一般的にステルス・マーケティングとは、『発信した情報がプロモーションや広告・宣伝であることを明言せず、あたかもインフルエンサー自身が宣伝商材に興味関心をもって購入したように見せかけることで、一般消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある不当な表示』のことを指します。具体的には以下ような事例が該当します。
- 有名人(インフルエンサー)が商品・サービスと一緒に取った写真を広告であると明示せずに宣伝すること
- 商品・サービスについて、広告である旨明示せず、感想の体を取って、SNS等に投稿すること
- インターネット上の記事に広告である旨明示しないこと
- 商品・サービスの比較ランキングに広告である旨明示しないこと
代表的なステルス・マーケティングの炎上事例
代表的なステルス・マーケティングの炎上事例を見てみましょう。
実際に発生した炎上の経緯
- 複数のインフルエンサーによるTwitterアカウントから、ある映画のレビュー漫画が一斉に投稿される
- 『広告』『PR』とは記載されていないが同じハッシュタグや投稿時間が同時刻なことや、
好意的レビューしかないことから報酬を受け取って投稿されたステルスマーケティングなのではないかとして、SNS上で批判の声が相次いだ - 2日後には広告主が謝罪文を公表
マーケティング施策を担当していた広告代理店が『PR表記不要』とインフルエンサーに説明していたことが明らかになった
ステルス・マーケティングによる悪影響とは?
では、ステルス・マーケティングをおこなうとどのような悪影響があるのでしょうか?消費者・事業者(広告主)・インフルエンサーの三者目線からそれぞれみていきましょう。
消費者に対する悪影響
ステルス・マーケティングは、プロモーションではない=インフルエンサー自身が商材を主体的に購入し、好意的にレビューしていると消費者に誤認させてしまう恐れがあるという点で、非常に悪影響があると言えます。一見、プロモーションであるか否かの判断は消費者に一任されており、事業者やインフルエンサー側には責任がないかのように思えますが、故意的に消費者がプロモーションの判別がつかないような表示を行うと言う点において、非常に悪質と言わざるを得ません。
事業者(広告主)に対する悪影響
ステルス・マーケティングは、短期的な利益を追い求める事業者にとっては効果的なマーケティング手法になりえるかもしれませんが、長期的または継続的に利益を追求していきたい事業者にとっては悪手となってしまいます。なぜなら、消費者やSNSユーザーのリテラシーレベルは年々向上しており、長期的なステルス・マーケティングは見破られてしまう可能性が高いからです。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2018年におこなった調査によると、どの年代でも約70%の消費者はプロモーションであることを明確にしている、または情報発信者がきちんと評価していれば問題ないと捉えています。こういった消費者の傾向に反して長期的なステルス・マーケティングを続けて消費者に悪質なプロモーションが露見してしまった場合、炎上が発生し、企業のブランド・イメージも低下してしまうことが懸念されます。
インフルエンサーに対する悪影響
ステルス・マーケティングが消費者にとっても明確に悪影響であるといことが一般的な社会通論となりつつあるため、ステルス・マーケティングを実行するインフルエンサー自身のイメージが低下することが懸念されます。特に、インフルエンサー・マーケティングという施策自体が「インフルエンサーの価値」に基づいて行われているもののため、ステルス・マーケティングをおこなって消費者に悪影響を及ぼすようなプロモーションをしたことが露見した場合、レピュテーションリスクによってインフルエンサーの価値=フォロワー数、信頼度等も低下する恐れがあります。フォロワー数の減少によってインフルエンサーとしての価値が落ちてしまうと、インフルエンサーはSNSを通した収入を獲得しづらくなってしまうため、インフルエンサー自身にも一定のリスクがあることは念頭に置く必要があります。
ステルス・マーケティングは法律違反じゃないの?
このように悪質なステルス・マーケティングが横行している昨今ですが、一部を除いてステルス・マーケティングは法律違反ではないというのが現状の法規制となっています。(2023年2月現在)
法的な規制が適応されるのは、現段階において下記の2ケースとなっています。
優良誤認表示
優良誤認表示とは、「事業者の表示であるにもかかわらず、第三者(インフルエンサー)の表示であると一般消費者に誤認させる」とともに、商材や役務の品質や企画が実際よりも著しく優良であると示しているもの」「または競争事業者の商材よりも著しく優良であると消費者に示す表示」のことを指します。
有利誤認表示
有利誤認表示とは、「事業者の表示であるにもかかわらず、第三者(インフルエンサー)の表示であると一般消費者に誤認させる」とともに、「取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」または「取引条件について、競争事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」を指します。
ステルス・マーケティングにならないために出来ることとは?
これまで紹介したようなステルス・マーケティングを防ぎ、正当なプロモーションをおこなうためには、プロモーションであることを明確にし、消費者にとってより良い事業者であることを心がけることが最優先です。