本レポートはレピュ研を運営する株式会社ジールコミュニケーションズが、独自の調査にから「企業の炎上」として判別した事例の分析内容です。先月特に目立っていた炎上事例とその発生要因を解説し、月間を通してどのような傾向、トレンドが見られるのか解説しています。
企業におけるWeb・SNS、及びレピュテーショナルリスクの管理、評価、対策等に活用していただくことを目的として毎月発表しております。
2022年2月の炎上件数の推移
ジールコミュニケーションズの独自調査・判定より、2022年2月の炎上件数は13件となりました。炎上タイプの内訳は下グラフの通りです。
2022年に入り、増加傾向にあった炎上件数が、2月に入ってからは若干落ち着いています。しかし、2021年11月からの5か月間を全体的に見てみると、炎上の発生件数は上下し続けており、一概な増加傾向・減少傾向は見られません。炎上の発生件数が多く見られた月の翌月は減少する、を反動のように繰り返していることが分かります。
従業員によるSNSの不適切な投稿で炎上
ある自動車販売店の営業マンが、SNSに不適切な投稿をおこなったとして批判の声が集まっています。
問題の投稿をおこなったのは、とある自動車販売店に努める営業のエース社員でした。当該社員は、同業他社の店舗に客を装い訪れ、その接客内容を批評する投稿をTwitter上でおこないました。
商談して値引き交渉までしたけど
実際の投稿内容より引用
買わずに帰ってきました。
ライバル車ほぼ知り尽くした。
営業マンは65点くらいかな。
この投稿に対して、SNS上のユーザーから非難が殺到しました。当該社員は、Facebook・YouTube・アメーバブログ・Instagram等、自動車販売の界隈では多方面への情報発信をおこなっていたため、各方面から非難を浴びることとなりました。当炎上を受けて、店舗側は約3日後に公式HPにて謝罪文を公表していますが、すでにネット上では店舗名でのサジェスト汚染が発生しているなど、今後レピュテーションの悪化が懸念されます。
企業として出来る”社員のSNS利用”に対する体制づくり
今回の炎上では、店舗側が早々に謝罪文を公表するなど、一見して企業・店舗側の対応方法は適切だったかのように思われますが、企業としておこなう必要のあった「社員のSNS利用」に対する企業側の体制整備という観点で、炎上前と炎上後の対応それぞれに問題点が見受けられます。
社員に対するSNS利用の教育が不十分だった
問題の投稿をおこなった社員は、約4つのSNS上で活躍し、自動車販売界隈を牽引する注目の存在でした。当炎上では、多数のSNSで活躍し露出が高いにも関わらず、SNSを利用する社員自身のネットリテラシーが低かったことが原因の一つとして挙げられますが、この問題は社員個人だけの問題とは一概には言えません。
私たちの生活において、SNSは最早なくてはならない存在となりつつあります。しかし、ここまでSNSの存在が身近になったにも関わらず、SNS利用のリテラシーに関しては、個人の意識やアンテナの高さに依存しており、自ら情報を求めない限りSNS利用のリテラシーを高める機会がない、という現状があります。そのため、企業として社員のSNSリテラシーを高め、企業の炎上を防ぐためには、企業が率先して効果のあるSNS利用の教育機会を創出していく必要があります。
今回の炎上事例に関しても同様です。当該社員が多数のSNSを利用しながらもネットリテラシーが低かったことは、本人のみの問題でなく企業・店舗として社員のSNS教育をおこなっていなかった。または、おこなってはいたが教育の精度が低かったことが原因にあったと考えられます。企業として、会社と社員を炎上から守りたいと考えるのであれば、積極的に情報収集をし、社員に教育する機会を設ける必要があったと言えるでしょう。
SNSのモニタリングが不十分だった
炎上を未然に防ぐために大切なこととして、炎上化する前に火種となり得る投稿内容を事前に発見し、適切な対処をおこなうことが挙げられます。今回、炎上が発生してしまった、かつ対応が3日後になってしまったという結果を踏まえると、炎上の火種となり得る投稿を発見する=「SNSのモニタリング」を行っていなかった、またはSNSのモニタリングをおこなってはいたが精度が低かったのではないかと推測されます。
謝罪文の内容が不十分だった
炎上から3日後に店舗側は謝罪文を公表しましたが、この謝罪文に関しても批判の意見が集まりました。謝罪文は以下のような内容でした。
このたび、弊社営業スタッフのTwitter上での発言におきまして、大変不適切な行動、表現がありました。
実際の謝罪文より引用
同じ自動車販売業務に従事する同志様に対し、大変失礼かつ不適切な行動、発言がありましたことを、心よりお詫び申し上げます。
弊社として、この事態を非常に重くとらえ、スタッフ本人による不適切表現を含む該当ツイートを削除するとともに、社内規定に則り関係者の処分を決定いたしました。
こうした事態に至った原因を調査し、二度とこうしたことを起こさないように体制を整えて参ります。
この内容のどの部分に対して批判をうけてしまったのでしょうか?
大変不適切な行動、表現がありました
どのように不適切な内容であったか、明言していない点に対して批判意見が集まりました。
- 何が不適切であったのか
- それによってどのような結果となったか
- 企業としてどのように捉えているのか
謝罪文ではこの3点を抑えることにより、企業として問題と向き合う姿勢が明確になり、誠実性が伝わります。その点において今回の謝罪文は、ただ単に問題の投稿を「不適切」と大雑把な括りで表現し、企業としての姿勢を示さなかったことが、批判ポイントの一つとなったと考えられます。
社内規定に則り関係者の処分を決定
謝罪文において、企業がどのような判断でどのような処分を下したかは、記載すべき内容の一つではあります。しかし、SNS上のユーザーが最も知りたい内容は、「処分によって炎上を発生させた人物が、どのようなペナルティーを負うことになったか」という具体的な処罰についてです。具体的な処罰に関して言及せず、処罰をしたという表面上の事実を伝えたところで、SNSのユーザーにとっては肩透かしとなってしまうため、炎上について調べようとして、ますます興味を抱いてしまう可能性があります。謝罪文を掲載する場合には
- 処罰をおこなったかどうか
- 処罰によって、当事者がどのようなペナルティーを負うこととなったか
を明記し、謝罪文によってユーザーの情報を完結させることが重要です。
体制を整えて参ります
上記の2つと同じく、「具体的な内容を明記する」ということは謝罪文において基本かつ重要なスタンスとなります。当文章の場合も、
- どのような体制を目指すのか
- どのようにして体制を整えていくのかの具体的な実施方法
について言及することによって、より企業としての方向性が明確となり、謝罪文の内容も現実性が出てきます。
乳がん検診の啓蒙ポスターが批判を呼び炎上
乳がん検診の啓蒙ポスターが、乳がん患者への侮辱だとして批判されました。昨年末、乳がんの定期検診を推奨する団体が主催する、乳がん検診の啓蒙ポスターを募集するコンペの入賞者が発表されました。大賞に入選したポスターは乳がんの告知と福引の当たりがリンクしたかのようなデザインでした。このデザインに対して批判意見を発したのが「乳がん治療を経験した当事者」でした。
外科外来で見つけた、デザイングランプリのポスター。
実際の告発ツイートより引用
何これ?抽選であなたが当たりました、みたいな。
馬鹿にしてる?
そもそもガラポン回してないけど?
なんかすごく腹ただしい気持ちになった。
二度と見たくない。
乳がんを経験された方の悲痛な告発を受けて、SNS上では以下のような意見が相次ぎました。
- このポスターについては、患者さん、ご家族の目に触れないように速やかに全撤去願います。
- 何を基準に、このポスターデザインの選考を通したのか弁明して欲しい。
- 本当に乳がんになる方を早期発見で救いたいと思っているなら、当事者意識の低さも感じますし、思いやり皆無です。
この炎上を受け、主催団体は炎上から約3日後に公式HPにて謝罪文を公表しましたが、本来であればがん患者に寄り添うべき当該団体が、乳がん当事者の感情を軽視したという事実は拭えません。歴史の長い団体だからこそ落胆も大きく、今後の団体活動に差し障ることが懸念されます。
従来の目的設定との乖離が炎上を招く
今回の炎上に関して、主催団体は謝罪文において
乳がんの早期発見の大切さを伝え、検診受信をよびかけるとともに、正しい知識を習得していただき、ご自分に合った適切な行動を起こしていただくことを目的に実施
実際の謝罪文より引用
と述べています。しかし、この「目的」がSNSが急速に浸透したことによって「より注目されること」にシフトし始めた結果、従来の目的と乖離してしまったことが原因の一つにあるのではないかと推測されます。SNS全盛期となった昨今において、いかに真新しいコンテンツでSNSユーザーの注目を集めるかは、ブランド認知拡大という観点において最重要事項の一つとなりつつあります。ユーザーの関心を得ることに注力するあまり、本来の目的がおざなりになるとともに、特定のユーザーを不快にさせる可能性・リスクを蔑ろにした結果として起こる事象の一つに「炎上」があります。実際に、法人における炎上発生の根本的理由として、「本来の目的と乖離した情報発信をおこなった」という炎上ケースは増加傾向にあり、今回の炎上も、同等のパターンだと推測されます。
2月の炎上【傾向と分析】
1月と比較すると体感的に炎上件数が増加したように感じられますが、炎上未満の騒動が相次いで頻発して発生しており、実際には比較的落ち着いた月となりました。
炎上発生に際して、即座に謝罪文を掲載する企業が増加しており、炎上など有事の際に企業としてあるべき基本スタンスが一般的にも浸透してきていると言えるでしょう。しかし、対応方法の練度には企業ごとにバラつきがあり、SNSリスク対策と、して体制を整備している企業としていない企業の差が顕著に表れている印象を受けます。特に明確な差がある対応方法として、「謝罪文」が挙げられます。
謝罪文にはいくつかの仕様がありますが、そのなかでも昨今特に注目されている事項として「炎上当事者の処罰内容の公表」があります。社内規定に従って処分をおこなった旨を記載している謝罪文は多くありますが、その処分によって当事者がどのような責任を負うことになったか、という具体的な内容にまで言及をしているものは少ないようです。SNS上のユーザーは、この処罰の重さと、炎上に至った問題行為を比べ観て、当事者に相応しい処罰が下っているか、企業として誠実な対応をおこなったかどうかを判断する傾向にあります。
炎上など有事の際には、いかに企業の誠実性を示し、レピュテーションを回復させるかという観点から、「炎上当事者の処罰内容」をしっかりと明言することをお勧めします。
事例の分析で、炎上リスクのノウハウを蓄積
ジールコミュニケーションズが開催している無料のオンラインセミナーでは、今回ご紹介した炎上事例の他にも、様々な事例をさらに深掘りする形で解説しております。セミナー中の炎上事例解説では、データに基づいた炎上トレンドや、具体的に注意すべき投稿内容についてお伝えしております。
ぜひ、弊社セミナーにご参加の上、今後のSNSリスク対策にお役立ていただければ幸いです。