本レポートはレピュ研を運営する株式会社ジールコミュニケーションズが、独自の調査にから「企業の炎上」として判別した事例の分析内容です。直近で特に目立っていた炎上事例とその発生要因を解説し、どのような傾向、トレンドが見られるのか解説しています。企業におけるWeb・SNS、及びレピュテーショナルリスクの管理、評価、対策等に活用していただくことを目的として毎月発表しております。今月は2022年のトップ炎上を特集しております。
目次
2022年の炎上件数の推移
ジールコミュニケーションズの独自調査・判定より、2022年の炎上件数は288件となりました。炎上タイプの内訳は下グラフの通りです。
これにより、2022年の炎上発生件数は300件近くに上りました。1ヶ月に平均24件前後の炎上が発生している計算となります。最も炎上が多発した月は6月でした。そのまま炎上件数は上昇するものと予測されていましたが、7月に発生した政治的インパクトの強い事件により、一旦は落ち着きを取り戻しました。しかし、その後は緩やかに上昇傾向をみせ、依然として高い数値を保っています。
【2022年2月】生配信中に不適切な発言をしたことで炎上
とあるeスポーツ選手が、生配信中に差別的な発言をしたことで炎上しました。
批判の的となったのは、10社ほどのスポンサーがついている女性プロゲーマーです。YouTubeでの生配信中に「身長170㎝以下の男性には“人権”がない」という発言をしたところ、身長が170㎝以下の男性に対する差別発言だと言う批判の声が殺到。プロゲーマー本人はTwitter上で謝罪をするも、スポンサー企業と契約事務所から契約を解除されてしまう事態となりました。
新興産業における「新規ユーザー」への配慮
当炎上で問題となった「人権」というキーワードですが、一般的な人権に対する認識と、eスポーツ界隈における人権の意味合いが異なることはご存知でしょうか?
世界人権宣言にて採択されている人権の意味、つまり一般ユーザーが認識するところの意味合いは「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。」という極めて普遍的な内容です。一方で、eスポーツにおける人権とは、「ゲーム内での装備や強さがある一定以上の基準を満たしていること」を指します。
このような、いわゆる「ネットスラング」と呼ばれる単語は、ネットゲーム創設期に生まれて脈々と受け継がれ、熟成された年季の入った暴言であり、古参ユーザーであればあるほどゲーム内のネットスラングを当たり前の言葉として、抵抗なく受け入れている現状があります。
しかしeスポーツは現在、世界的に盛り上がりをみせている新興産業です。多くの企業やユーザーが新規参入し、プロゲーマーという職業も確立しつつあります。ここで問題となってくるのが、先述した「古参ユーザーにしか分からないネットスラング」です。ゲーム内で古参ユーザーと新規ユーザーが双方向のコミュニケーションをとったとき、スラングによって文脈に対する見解の相違が生まれてしまうのです。さらに、このネットスラングは現実よりもかなり気軽にかわされる機会が多く、古参ユーザーにとっては当たり前の会話に過ぎないと言う嫌いもあります。そのため、
古参ユーザー「お前が脳死プレイしたせいで大爆死したんだが?!チームプレイは基本だろガイジが!!キッズは帰って寝ろよ!」
新規ユーザー「せっかくeスポーツを初めて見たのに、ひどい暴言を吐かれて楽しくない…。誹謗中傷だ!!」
上記はあくまで例ですが、このような事態が頻発していることも確かです。これにより、eスポーツ界隈では暴言や不適切発言による炎上がひっきりなしに発生しているという現状があります。
【2022年4月】新聞広告に女子高生のイラストを掲載し炎上
ある全国紙に胸が強調されたと捉えられる女子高生のイラストが、広告として大々的に描かれ問題となりました。
イラスト広告が掲載されたのは、ある経済専門紙の広告面でした。「今週も、素敵な一日になりますように」という文言と共に、丈の短いスカートを履いた女子高生のイラストが一面に掲載されると、
「女子高生を見て元気を出そうという広告のコンセプトが良くない!」
「痴漢を助長させる恐れがある」
というように、公共的な媒体が女子高生を徒に性的消費しているとして物議をかもして瞬く間にSNS上で拡散されることとなりました。
掲載から3日間のうちに、同イラストの関連コメントは通常時の約120倍まで膨れ上がり、その後も公共媒体における表現の自由や平等といった議論にまで発展し、長期的な炎上に発展しました。
様々な要素が複雑に絡み合ったジェンダー問題
弊社の分析としては、本炎上は単純なジェンダー問題による炎上で片づけるのではなく、様々な要素が複雑に絡まりあった結果だと推測しております。
その要素とは、
- 平等のステージ
- 嫌なものを見ない権利
- 環境の充足による弊害
- 議論の忌避
の4つです。以下、1つずつ解説してまいります。
平等のステージ
「ジェンダー平等」とは昨今声高に叫ばれているキーワードではありますが、「平等」には異なる二つの性質があることをご存知でしょうか?それは「機会」と「結果」です。
「機会の平等」とは、国籍やジェンダーまたは人種など元来人間に付与されているあらゆる特性をとっぱらい、全員が同じチャンスに恵まれるべきだという考えのことを指します。リレーに例えると、全員のスタートを一緒にするようなイメージです。一方で「結果の平等」とは、人々がほぼ同じ財産や所得を持つ状態、つまり働いた結果のことなどを指します。こちらもリレーに例えてみると、全員が同時にゴールすることが結果です。この2つは、同じ平等の概念でも全く異なる次元になってきます。
この「機会均等」と呼ばれる概念を踏まえて、当炎上事例を分析してみると、2つの平等問題が混在していることが見て取れます。
「機会」…公共性の高い媒体(全国新聞)には、性的と捉われるコンテンツを載せる機会を与えられるべきなのか
「結果」…載せたコンテンツが社会に与える影響
となります。しかし、実際にSNSで取り沙汰されたの意見は、新聞にイラストが掲載されてもターゲティング的に児童の目に触れないので問題はないという「機会」の話や、この問題が男性のイラストであれば批判されることはなかっただろうという「結果」に対する意見など、平等のステージが噛み合っていない状態でした。
つまり、「機会」と「結果」というそもそも次元の違う話を同レベルで議論しようとした結果、話が迷走して炎上の長期化を招いてしまったのです。
嫌なものを見ない権利
前項では「平等」について解説をしてまいりましたが、今回の炎上で特に話題に上ったキーワードは「嫌なものを見ない権利」でした。
「嫌なものを見ない権利」とは文字通り、コンテンツに対して不快に感じる人がいる場合はそのコンテンツを無くしていけばよいのではないか、という考えのことです。では、そもそも「嫌なものを見ない権利」とは存在するのでしょうか?
弊社としては「嫌なものを見ない権利は存在しない」が分析と考察を重ねた上の結論となります。
もちろん、嫌なコンテンツを批判することは誰にでもある権利ですが、その価値観を他人に対して押し付ける権利は存在しませんし、無理強いして他人がそのコンテンツを見る権利まで奪うことは出来ません。また、観たくない物を見ない権利とは表現を無くすことに繋がります。
「嫌なものを見ない権利」というのは、単なる個人の権利ではなく、他人に対しての強制にしかなりえないのです。
環境の充足による弊害
では前項で解説した「嫌なものを見ない権利」という発想が生まれた原因とは一体なんなのでしょうか?それは、昨今における「環境の充足による弊害」が最も大きな要因なのではないかと、弊社は推測しております。
私たちの周りには、無料動画や漫画、それこそSNSなど無料のコンテンツが溢れてかえっています。
なかには、無料のコンテンツしか消費しないというユーザーもいるくらいです。このように、「無料」のコンテンツが充足して生活が豊かになるにつれて、ユーザーは「無料」であることが当たり前であると勘違いし始め、逆に無料で満足できる品質のコンテンツが提供されないと、批判をしだすユーザーがここ数年で出始めてきました。
しかし、そもそも嫌なものを見たくなければ、対価としてお金を払って環境を整えるべきではないでしょうか?動画プラットフォームの広告の表示ブロックなどは典型的な例でありますし、直近ではTwitterが有料制度の導入に伴って、広告の表示制限を取り入れ始めましたね。
にもかかわらず、本来なら「お金を払って」充足した環境を整えていく必要があるところを、「高品質な無料」に慣れすぎたため、ユーザーは無料にも拘らず無理やり環境を整えようとし、それによって歪みがうまれ、「嫌なものを見ない権利」という志向に繋がったと弊社では考察しています。
議論の忌避
弊社の分析チームでは、Twitterと利用者である日本人の性質にも注目しています。
Twitterとは、普段の何気ない呟きや、個人の主張を一方的に吐き出せるSNSプラットフォームです。一方で、日本人的性質を表すとき、「島国根性」 「事なかれ主義」 「鎖国主義」 「日本人気質」といった言葉を耳にしたことはありませんか?いずれも、日本人が争いごとを好まない性質を表現した言葉ですね。
議論は争いごとと性質が似ているという傾向がありますが、上記にあげたTwitterの概念と日本人特有の性質が結びついた結果、「主張はしたいけど議論はしたくない」という傾向がTwitter内でみられるようになっっていったと考えられます。つまり、言いたいことだけ言って、相手の主張には耳を貸さないというスタンスです。
その結果、主張をおこなうばかりで対話や解決策が生まれず、むやみやたらと問題が肥大化してしまう傾向にあるのです。
2022年の炎上傾向
2022年の炎上は、従来までみられた炎上メカニズムから大きな変化が見られた年となりました。
そもそも従来の炎上メカニズムとは、企業がもつ世間一般的なブランドイメージと、実際に発信する情報の性質が乖離することで、SNSユーザーから反発がおこり、その結果炎上するといったフローがありました。
ところが近年、SNSユーザーの性質が変化しつつあります。SNSの主要ユーザーである若年層の社会問題に対する興味関心が高くなっているのです。それに伴い、他者に対するリテラシーやモラルにも敏感になり、直接注意したり批判をする傾向が強くなっています。
この性質変化を逆手に取ったのが、炎上系インフルエンサーの台頭です。自ら不適切な発言や情報を収集し、それを告発という体でコンスタントに発信することにより、集客をおこなっているインフルエンサーです。定期的に発信される不適切な告発情報を見過ごせなくなったSNSのユーザーたちは、こぞって情報を拡散し、そして批判するようになります。
このような性質の変化の結果、これまで比較的緩やかに上昇していた拡散率が、段階を経ることなく短期間で爆発的に炎上が燃え広がりました。
事例の分析で、炎上リスクのノウハウを蓄積
ジールコミュニケーションズが開催している無料のオンラインセミナーでは、今回ご紹介した炎上事例の他にも、様々な事例をさらに深掘りする形で解説しております。セミナー中の炎上事例解説では、データに基づいた炎上トレンドや、具体的に注意すべき投稿内容についてお伝えしております。
ぜひ、弊社セミナーにご参加の上、今後のSNSリスク対策にお役立ていただければ幸いです。